「今回の任務は、ノース領とウエスト領の鎮圧だ。」
団長の声が、訓練場に響く。
「小競り合いではない。戦争だ。」
その一言で、空気が変わる。
「第1、第2も動く。厳しい戦いになる。各自、心してかかれ。」
息を呑む音が、あちこちから漏れた。
「リゼ。」
名前を呼ばれ、顔を上げる。
「お前は城に残れ。王女様の護衛につけ。」
「……え?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
「お前はエリシア様を守るために近衛騎士団に入ったんだろう。」
「今が、その時だ。」
団長の言葉は、確かにその通りだった。
違わない。
……それでも。
「……私が、女だからですか?」
気づけば、口にしていた。
唇が、震える。
「違う。」
即答だった。
「王女を守る。それが近衛騎士の最優先だ。」
正しい。
……わかっている。
それでも――
(どうして、納得できないの)
仲間は、戦場に行く。
自分も、これまで戦ってきた。
同じように血を流してきた。
なのに、私は――
「……クロードは?」
乾いた声だった。
「……前線だ。」
短い答え。
それだけで、十分だった。
前線。
最も危険な場所。
胸が、ざわつく。
(……嫌だ)
“お前がいない世界で――”
あの時の声が、蘇る。
“幸せになってください。彼と”
ユリウスの言葉も、重なる。
「……団長。私も行きます。」
「だめだ。」
即座に、切り捨てられる。
「ですが――」
「リゼ。」
その時、静かに、エリシアが名前を呼んだ。
振り返る。
その顔を見た瞬間、言葉が止まる。
不安そうに、揺れる瞳。
守るべき人がそこにいる。
(……私が守りたいのはーー)
団長はそれ以上何も言わず、踵を返す。
そのまま、部隊を連れて去っていった。
「団長!」
声は、届かない。
――行ってしまった。
クロードの姿も、なかった。
すでに別動隊で動いているのだろう。
最後に会ったのは――
『……私たち、そういうのじゃないでしょう。』
自分の言葉が、頭の中で響く。
あの時の、クロードの顔。
『……忘れろ。』
それが最後だった。
(……馬鹿)
胸の奥が、痛む。
(もし、これが最後だったら?)
そんなはずない。
大丈夫。
そう思いたいのに――
不安が、消えない。
「……リゼ。」
エリシアの声に、はっとする。
その手が、かすかに震えていた。
(……しっかりしなきゃ)
自分に言い聞かせる。
ここに残る意味を、飲み込むように。
「エリシア。部屋に戻りましょう。」
手を取る。
その手を、強く、握る。
その温もりを、確かめるように。
(……守る)
それが、自分の役目だ。
……それでも。
(どうして、あいつのことばかり)
胸の奥が、ざわつく。
戦場へ向かった背中を、思い浮かべる。
届かない距離。
(……無事でいて)
それだけが、残った。


