あの日の風の、その続き〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来





風が、リゼの長い髪をいたずらに揺らした。




「リゼ様、今日も城に行かれるのですか?」


ドレスから早く楽な格好になりたくて、急いで屋敷に戻ろうと走っていたとき、背後から声がかかる。


振り返ると、侍女のアンナと執事のヴァンが立っていた。


「もちろんよ。ヴァン、馬の用意をお願いね。アンナは着替えを手伝って。」


はぁ、とため息をついたのはアンナだった。


「リゼ様、久しぶりにドレスを着てくれたとアンナはとても感動しましたのに、もう脱いでしまわれるのですか?もう少しアンナに余韻をくださってもよろしいのでは?」

せっかく目の保養でしたのに。

アンナの小言に、「余韻より動きやすさの方が大事よ。」と返しながらリゼは屋敷へ駆け込んだ。


「あー、もう、ほんとドレスって不便だわ。足が上がらないし、風で持ち上がるし、歩きづらいし。」

部屋につき、背中にあるドレスのチャックをアンナに降ろしてもらうと、すぐさまドレスを脱ぎ捨てる。

開放感に両手を広げるリゼに、アンナが慌てて声を上げた。


「リゼ様!はしたないです。奥様が嘆いておりましたよ。私は公爵令嬢を産んだはずなのに、と!」

「あら。お母様だって昔はおてんばだったって伯母様から聞いてるわ。」

騎士服に着替え、さらりとそう言うリゼに、アンナははぁ、と大きなため息をついた。

青銀の髪は高く結い上げられ、動きやすいポニーテールに変わる。

その姿はもう、令嬢というより、騎士だった。

「リゼ様、あまりアンナに心配をかけてはいけませんよ。」

そこに入ってきたのは、ヴァンだった。

「馬の用意ができております。本当に馬車で送らなくてよろしいのですか?」

リゼは小さく笑った。

「必要ないわ!今日は近衛騎士団の演習だもの!」

馬は馬でも、彼女が選ぶのは馬車ではない。


馬の背に軽やかに飛び乗ると、行ってきます!と手を降って颯爽と駆け出した。

風を切って小さくなるその背中を見送りながら、アンナは再び深く息を吐いた。


「……本当に。元気があるのはいいのですが、公爵令嬢としてはいかがなものでしょう。」


その言葉を聞いたヴァンは、目を細める。

「いえ。あれはもう、騎士の背中です。」


遠ざかるリゼの背中は、すでに見えなくなっていた。