「今日も頑張ろう」
小さく気合いを入れてから、
「おはようございます」
喫茶オークの扉を開ける。
店内には、優しいコーヒーの香りと、
いつもの温かな空気が広がっていた。
「おはよう、風香ちゃん」
店長の声が、やわらかく迎えてくれる。
着替えを済ませると、モーニングのお客さんのテーブルを片付けながら、ランチの支度に取りかかる。
最初はテンパっていたこの作業も、今ではすっかり慣れた。
あと少しすれば――
このテーブルも、またお客さんで埋まっていく。
チリン、チリーン
来客を告げるベルの音。
「いらっしゃいませー」
振り返ると――
そこに、詩音くんが立っていた。
「えっ……詩音くん⁈」
「おはようございます」
(……え?)
(幻じゃなくて、本物……?)
「おー、詩音。無理しなくていいからな」
店長がそう声をかける。
詩音くんは軽く頷くと、奥へ向かう。
その途中、私のすぐ横を通り過ぎた。
一瞬で、現実なんだと実感する。
何か言おうとしたのに、声が出てこない。
「皿洗いだけど、手伝います」
短くそう言い残して、休憩室へ入っていった。
急なことで、思考が止まる。
ぼんやりと休憩室の扉を見つめていると――
「お医者さんからは、部活は二、三日後からって言われたんだけどね。
お店なら手伝えるって、詩音が言ってくれて」
店長が、やわらかく説明してくれる。
「とりあえず、皿洗いからやってもらうことにしたんだ」
「でも、いつもは夕方からなのに……お昼から入ってくれるんですか?」
思わず聞き返す。
「皿洗いだけだからね。ランチの忙しい時間から手伝ってくれるそうだよ」
店長は、どこか楽しそうにそう答えた。
その顔は、少しだけ――ニヤニヤしている。
でも、そんなことに気づく余裕なんてなくて。
(やった……!)
(詩音くんと、長く一緒にいられる……!)
心の中で、思いきりガッツポーズを決めた。
――そのとき。
カチャ。
扉が開く音。
エプロンをつけた詩音くんが、戻ってきた。
「詩音くん、無理しないでね」
そう声をかけると、詩音くんはコクンと小さく頷いた。
「あっ……待って、詩音くん」
思わず、呼び止める。
目のあたりに、小さな傷。
それに――眼鏡がない。
「目に傷……大丈夫なの?」
詩音くんは一瞬はっとして、手で顔を隠した。
「大丈夫。肘が当たったときに眼鏡が割れて、それで傷がついただけだから」
少しだけ視線を逸らしながら、続ける。
「これからのことも考えて、眼鏡やめて……コンタクトにした」
(コンタクト……)
(……顔、ちゃんと見える)
思った瞬間――
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
不安が、よぎる。
私だけが知っている――
そう思っていた、詩音くんの素顔。
(どうしよう……)
きっと――
みんなが、気づいてしまう。
詩音くんの、かっこよさに。
そんな身勝手な考えが、胸の奥にじわりと広がっていった。
小さく気合いを入れてから、
「おはようございます」
喫茶オークの扉を開ける。
店内には、優しいコーヒーの香りと、
いつもの温かな空気が広がっていた。
「おはよう、風香ちゃん」
店長の声が、やわらかく迎えてくれる。
着替えを済ませると、モーニングのお客さんのテーブルを片付けながら、ランチの支度に取りかかる。
最初はテンパっていたこの作業も、今ではすっかり慣れた。
あと少しすれば――
このテーブルも、またお客さんで埋まっていく。
チリン、チリーン
来客を告げるベルの音。
「いらっしゃいませー」
振り返ると――
そこに、詩音くんが立っていた。
「えっ……詩音くん⁈」
「おはようございます」
(……え?)
(幻じゃなくて、本物……?)
「おー、詩音。無理しなくていいからな」
店長がそう声をかける。
詩音くんは軽く頷くと、奥へ向かう。
その途中、私のすぐ横を通り過ぎた。
一瞬で、現実なんだと実感する。
何か言おうとしたのに、声が出てこない。
「皿洗いだけど、手伝います」
短くそう言い残して、休憩室へ入っていった。
急なことで、思考が止まる。
ぼんやりと休憩室の扉を見つめていると――
「お医者さんからは、部活は二、三日後からって言われたんだけどね。
お店なら手伝えるって、詩音が言ってくれて」
店長が、やわらかく説明してくれる。
「とりあえず、皿洗いからやってもらうことにしたんだ」
「でも、いつもは夕方からなのに……お昼から入ってくれるんですか?」
思わず聞き返す。
「皿洗いだけだからね。ランチの忙しい時間から手伝ってくれるそうだよ」
店長は、どこか楽しそうにそう答えた。
その顔は、少しだけ――ニヤニヤしている。
でも、そんなことに気づく余裕なんてなくて。
(やった……!)
(詩音くんと、長く一緒にいられる……!)
心の中で、思いきりガッツポーズを決めた。
――そのとき。
カチャ。
扉が開く音。
エプロンをつけた詩音くんが、戻ってきた。
「詩音くん、無理しないでね」
そう声をかけると、詩音くんはコクンと小さく頷いた。
「あっ……待って、詩音くん」
思わず、呼び止める。
目のあたりに、小さな傷。
それに――眼鏡がない。
「目に傷……大丈夫なの?」
詩音くんは一瞬はっとして、手で顔を隠した。
「大丈夫。肘が当たったときに眼鏡が割れて、それで傷がついただけだから」
少しだけ視線を逸らしながら、続ける。
「これからのことも考えて、眼鏡やめて……コンタクトにした」
(コンタクト……)
(……顔、ちゃんと見える)
思った瞬間――
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
不安が、よぎる。
私だけが知っている――
そう思っていた、詩音くんの素顔。
(どうしよう……)
きっと――
みんなが、気づいてしまう。
詩音くんの、かっこよさに。
そんな身勝手な考えが、胸の奥にじわりと広がっていった。


