父親は海外事業にかかりきりで、日本に帰ってくるのは年に一度あるかないか。
そんな、誰かの“中心”にいながら、どこかぽっかりと穴の空いたような日常の中で——静は現れた。
お母さんの弟、優一郎さんの養子として。
私の“家族”の形の中に、突然入り込んできた存在だった。
でも、その静がこの家にいたのは、たった一年だけ。
理由も告げられないまま、ある日を境に本当に何の前触れもなくいなくなってしまった。
置いていかれた、という感覚だけがはっきり残っているのに、どうしていなくなったのかは誰も教えてくれなかった。
おじいちゃんに聞いても、優一郎さんに聞いても、組員の人たちに聞いても、返ってくるのは決まって曖昧な言葉だけで、はぐらかされるように話題を変えられるばかりだった。
あの時からずっと、心のどこかに刺さったまま抜けない“静”という名前が、今こうして目の前で息をしていることが、どうしても現実だと思えなかった。



