あの日の君へ

会社のお昼休み。

休憩スペースで、女性社員たちが昼のワイドショーを見ながら盛り上がっていた。

『人気俳優同士、電撃復縁!』

画面の下には、大きなテロップ。

「えー、すご。別れた相手と戻るとか無理かも」

「わかる。一回ダメになった相手って、結局また同じ理由でダメにならない?」

笑いながら、先輩たちがそんな話をしている。

「だって、うまくいかなかったってことは、それなりに原因あったってことでしょ?」

「まぁねぇ。根本的な部分が変わってないなら、結局また同じこと繰り返しそう」

何気ない雑談。

誰も、結衣に向けて話しているわけじゃない。

でも。

その言葉だけが、妙に胸に残った。

結衣は小さく息を吐く。


——私たちも、そうなのかな。





その夜。

スマホの画面に表示された名前を見て、結衣の心臓が大きく跳ねた。


『成瀬慶』


一度、深呼吸をする。

震える指で、通話ボタンを押した。


「——もしもし」

『結衣』

電話越しに聞こえた声に、胸の奥が大きく揺れる。


会いたかった、とか。

声が聞きたかった、とか。

そんなありふれた言葉より。

ただ、もう繋がれないと思っていた相手と、またこうして繋がっていることが嬉しかった。


「本当に電話くれた」

『冗談だと思ってたの?』

ふ、と慶が笑う。

——ああ、この笑い方、慶ちゃんだ。

結衣は、涙が出そうになるのを必死に堪えた。


「何年振り?」

『……5年くらい?』

「嘘!そんなに経つ!?」


話しているうちに、少しずつ感情は落ち着いてきて。

緊張していた空気が、ゆっくり柔らかくなっていく。

話は自然と、地元の話になった。


「ナオ、結婚したんだよ」

『あー、聞いた。ジュンから連絡きた』

慶が笑う。

『松本は、この前二人目生まれたって』

「え!? 早くない?」

『な。“もう家建てた”とか言っててビビった』

結衣が思わず吹き出す。

「なんか、みんなちゃんと大人になってるんだね」

『……怖くね?ついこの間まで秘密基地とか作ってたのに』

「遡りすぎでしょ」

ふふ、と笑い声が重なる。

「そういえば、この前沢田先生に偶然会った」

『え、マジで?』

「全然変わってなかったよ。“鈴原か?”って一発で気付かれて」

『あの先生、卒業してから何年経っても生徒の顔覚えてそう』

「分かる」

結衣が小さく笑う。

「あとね、私がバイトしてたアイスクリーム屋さん」

『うん』

「今、ラーメン屋さんになってる」

『え、潰れたの!?』

「うん」

『ショック……俺まだ1回も食べてないのに』

「もうアイスないよ」

『じゃあ地元帰ったら、そこで働こうかな』

「バカなの?」

思わず笑う。

たったそれだけの会話なのに。

懐かしくて。

楽しくて。

離れていた時間が、少しだけ埋まっていく気がした。


『……結衣、俺さ』

ふいに、慶の声が少しだけ真面目になる。

結衣も、受話器を握る手に力が入った。

『……明後日、オフなんだけど』

「……」


たぶん、同じ気持ちだった。

小さい頃から一緒にいたから、分かってしまう。

声のトーンや、話し方で。

でも。

その一言が、どうしても言えなかった。


『……仕事終わるの、何時?』

「……19時、くらいかな」


短い沈黙。

電話越しに、お互い言葉を探しているのが分かった。


『じゃあ』

慶が、小さく笑う。


『迎え行く』