東京に戻ってきても、心はまだ、地元に置いてきたままだった。
久しぶりの自分の部屋。
静かな空間。
バッグを床に置いたまま、結衣はしばらく動けなかった。
スマホを開く。
通知。
不在着信。
『成瀬慶』
その名前を見るだけで、胸の奥が苦しくなる。
声が聞きたい。
会いたい。
でも。
会ったら、きっとまた戻れなくなる。
結衣は、スマホを強く握り締めた。
——一回ダメになった相手って、
結局また同じ理由でダメにならない?
——根本的な部分が変わってないなら、
結局また同じことの繰り返し。
休憩室で聞いた先輩たちの声が、頭の奥で何度も蘇る。
好きなだけじゃ、どうにもならないことがある。
今回みたいに、また慶ちゃんの仕事に迷惑をかけたら。
また、傷付けてしまったら。
発信ボタンを押しては、閉じる。
それを何度も繰り返した。
声を聞いたら、きっと揺らぐ。
それでも。
終わらせるなら、今しかない気がした。
意を決して、発信ボタンを押す。
数回のコール音。
そのあと。
『……結衣?』
聞こえてきた声に、胸がぎゅっと締め付けられる。
たった数日ぶりなのに。
どうしてこんなに、会いたくなるんだろう。
「……うん」
声が、少し震えた。
電話の向こうで、慶ちゃんが小さく息を吐く。
『よかった……』
その声が、思っていたより弱くて。
結衣は思わず唇を噛んだ。
「……ごめんね」
『なんで謝んだよ』
「電話、出れなくて」
『……』
沈黙。
その静けさが、余計に苦しかった。
目を閉じる。
ふぅ、と一度息を吐き、ぎゅ、とスマホを強く握る。
「……やっぱり私たち、一緒にいない方がいいと思う」
言葉にした瞬間。
胸の奥が、ずきりと痛んだ。
電話の向こうで、慶ちゃんが息を止める気配がする。
「仕事以外では、会わないようにする」
冷静に話そうと思うのに、声が震えてしまう。
「担当も、変えてもらうつもり」
『……結衣』
慶ちゃんが何か言いかける。
でも。
「また、慶ちゃんに迷惑かけたくないの」
遮るように、結衣は言葉を続けた。
「だから……もう——」
『……一人で決めんなよ』
低く掠れた声だった。
結衣の指先が強張る。
慶ちゃんは苦しそうに息を吐く。
『結衣、今どこ?』
その声だけで、泣きそうになる。
会いたい。
ここにいるって言いたかった。
でも。
好きだから。
好きなまま、壊れていくのが怖かった。
何も返さない私に、慶ちゃんが言葉を落とす。
『迷惑なわけ、ないだろ……』
その声は少し震えていた。
『記事のことなら、結衣は何も——』
「違うの」
思ったより強い声が出た。
結衣は、小さく息を吐く。
「私がダメなの」
喉が痛い。
それでも、言葉を止められなかった。
「慶ちゃんと一緒にいると、私が苦しいの」
『……』
「慶ちゃんの仕事、たくさんの人が関わってるでしょう」
『……』
「私、もう……」
言葉が詰まる。
それでも。
「これ以上、慶ちゃんの隣で苦しくなりたくない」
静かな沈黙。
電話越しに、互いの呼吸だけが聞こえる。
『……俺は』
慶ちゃんの声が、小さく揺れる。
『……また会えて、嬉しかった』
結衣は目を閉じた。
だめ。
揺らぐ。
会いたくなる。
戻りたくなる。
「……ごめんね」
絞り出すみたいな声だった。
そして。
「……あと、お母さんに、ちゃんと連絡返してあげてね」
『……え?』
「梓さん、寂しそうだった」
その瞬間。
電話の向こうで、慶ちゃんが黙る。
結衣は、小さく笑った。
「テレビに向かって話しかけてるんだって」
『……はは』
掠れた笑い声。
その声が、痛いくらい愛しかった。
長い沈黙の後。
『……わかった』
やっと絞り出したみたいな声。
結衣は唇を噛む。
泣いちゃだめ。
今泣いたら、全部終われなくなる。
「……じゃあね」
『結衣——』
通話終了。
画面が暗くなる。
静かな部屋。
それなのに、胸の奥だけが、うるさいくらい痛かった。
結衣はスマホを抱き締めたまま、その場にしゃがみ込む。
声を殺して泣いた。
好きだった。
今でも、どうしようもないくらい。
久しぶりの自分の部屋。
静かな空間。
バッグを床に置いたまま、結衣はしばらく動けなかった。
スマホを開く。
通知。
不在着信。
『成瀬慶』
その名前を見るだけで、胸の奥が苦しくなる。
声が聞きたい。
会いたい。
でも。
会ったら、きっとまた戻れなくなる。
結衣は、スマホを強く握り締めた。
——一回ダメになった相手って、
結局また同じ理由でダメにならない?
——根本的な部分が変わってないなら、
結局また同じことの繰り返し。
休憩室で聞いた先輩たちの声が、頭の奥で何度も蘇る。
好きなだけじゃ、どうにもならないことがある。
今回みたいに、また慶ちゃんの仕事に迷惑をかけたら。
また、傷付けてしまったら。
発信ボタンを押しては、閉じる。
それを何度も繰り返した。
声を聞いたら、きっと揺らぐ。
それでも。
終わらせるなら、今しかない気がした。
意を決して、発信ボタンを押す。
数回のコール音。
そのあと。
『……結衣?』
聞こえてきた声に、胸がぎゅっと締め付けられる。
たった数日ぶりなのに。
どうしてこんなに、会いたくなるんだろう。
「……うん」
声が、少し震えた。
電話の向こうで、慶ちゃんが小さく息を吐く。
『よかった……』
その声が、思っていたより弱くて。
結衣は思わず唇を噛んだ。
「……ごめんね」
『なんで謝んだよ』
「電話、出れなくて」
『……』
沈黙。
その静けさが、余計に苦しかった。
目を閉じる。
ふぅ、と一度息を吐き、ぎゅ、とスマホを強く握る。
「……やっぱり私たち、一緒にいない方がいいと思う」
言葉にした瞬間。
胸の奥が、ずきりと痛んだ。
電話の向こうで、慶ちゃんが息を止める気配がする。
「仕事以外では、会わないようにする」
冷静に話そうと思うのに、声が震えてしまう。
「担当も、変えてもらうつもり」
『……結衣』
慶ちゃんが何か言いかける。
でも。
「また、慶ちゃんに迷惑かけたくないの」
遮るように、結衣は言葉を続けた。
「だから……もう——」
『……一人で決めんなよ』
低く掠れた声だった。
結衣の指先が強張る。
慶ちゃんは苦しそうに息を吐く。
『結衣、今どこ?』
その声だけで、泣きそうになる。
会いたい。
ここにいるって言いたかった。
でも。
好きだから。
好きなまま、壊れていくのが怖かった。
何も返さない私に、慶ちゃんが言葉を落とす。
『迷惑なわけ、ないだろ……』
その声は少し震えていた。
『記事のことなら、結衣は何も——』
「違うの」
思ったより強い声が出た。
結衣は、小さく息を吐く。
「私がダメなの」
喉が痛い。
それでも、言葉を止められなかった。
「慶ちゃんと一緒にいると、私が苦しいの」
『……』
「慶ちゃんの仕事、たくさんの人が関わってるでしょう」
『……』
「私、もう……」
言葉が詰まる。
それでも。
「これ以上、慶ちゃんの隣で苦しくなりたくない」
静かな沈黙。
電話越しに、互いの呼吸だけが聞こえる。
『……俺は』
慶ちゃんの声が、小さく揺れる。
『……また会えて、嬉しかった』
結衣は目を閉じた。
だめ。
揺らぐ。
会いたくなる。
戻りたくなる。
「……ごめんね」
絞り出すみたいな声だった。
そして。
「……あと、お母さんに、ちゃんと連絡返してあげてね」
『……え?』
「梓さん、寂しそうだった」
その瞬間。
電話の向こうで、慶ちゃんが黙る。
結衣は、小さく笑った。
「テレビに向かって話しかけてるんだって」
『……はは』
掠れた笑い声。
その声が、痛いくらい愛しかった。
長い沈黙の後。
『……わかった』
やっと絞り出したみたいな声。
結衣は唇を噛む。
泣いちゃだめ。
今泣いたら、全部終われなくなる。
「……じゃあね」
『結衣——』
通話終了。
画面が暗くなる。
静かな部屋。
それなのに、胸の奥だけが、うるさいくらい痛かった。
結衣はスマホを抱き締めたまま、その場にしゃがみ込む。
声を殺して泣いた。
好きだった。
今でも、どうしようもないくらい。


