ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/定期更新中】

 ◇

 ――ウィーン。

 いつもの小さなエレベーターに乗り込み、私の部屋の階へと向かう。

「…………」
「…………」

 会話が途切れ、祥ちゃんの様子を横目でこっそり確認する。
 彼は、私とは反対側の宙をじっと見つめていた。


 ガチャ、ガチャ。

 無言のまま鍵を開けると、重い扉を祥ちゃんが後ろから引っ張って開けてくれる。
 私が先に部屋へ足を踏み入れ、靴を脱いで、彼のほうへと振り返った。

 ――パタン。

 ドアが静かに閉まると。
 私たちはすぐに、お互いを強く抱きしめ合った。

 世界で一番大好きな香りに包まれる。

「……祥ちゃん。会いたかった」

「……俺も」

 暗い玄関。
 耳元で聞こえたその声は掠れていた。

 ――『これだけで済ませた俺を、褒めて』

 公園で言われた、甘い言葉が思い出される。
 あのときは、外だったけど……今は二人きり。
 そう思うと、ドキドキが加速していく。

 彼は少しだけ身体を離し、私の頬を両手で包み込むと、角度を変えながら小さなキスをいくつも落としてくれた。

 頬、おでこ、耳、鼻、瞼。

 その感触があまりにも優しくて、くすぐったくて、つい震えてしまいそうになる。

 そして最後にそっと、唇を重ねてくれた。

 この温度を待ちわびていたからか、なぜか涙が出そうになる。
 祥ちゃんの募った想いが全部込められているようで、そのすべてを受け止めたくて背中に腕を回した。

 唇をくっつけたまま、彼はいつのまにか靴を脱いでいた。
 私が転ばないように腰のあたりを支えながら、ゆっくりとベッドまで連れていってくれる。

 数日前まで、一人で泣いてばかりいた場所。

 切なげに私の名前を繰り返す声に、胸の奥が締め付けられる。
 離れている間、どれだけ辛い思いをさせてしまったんだろう。

 苦しかった時間を埋めるように、私の存在を確かめていく彼に応えながら。
 私も「大好き」の気持ちが少しでも多く伝わるように、力いっぱい抱きしめ返していた。