君が遺した、夜明けのしおり。

本当に、べったり濡れていた。鏡を見てみると涙の跡が付いていた。

さっき、私は弱くないって考えてたけれど。やっぱり、弱いのかもしれない。


軽いような重たいような気持ちを引きずって、「行ってきます」と玄関を出た。

お母さんは心配そうな顔をしていたけれど、無理やり笑顔を付けて。でも、見透かされているような気がしてならなかった。


道の途中、綺花ちゃんと偶然出会してしまった。このまま逃げると変に思われそうだから、できるだけ前を向いて歩く。

そうしたらあっちも、興味が無さそうにスタスタ歩いて行った。少しホッとする。


今日は雨も降ってなくて、カラッとした天気だった。ところどころ水溜りがある。

学校に着き、教室に入る。一瞬、綺花ちゃん達と視線が合ったが、強い目で反撃し、絡まれるのを回避する。

支度を終え、着席したら、先生が言った。

「今日は、男子の編入生が来まーす」

その一言に、みんなが騒つく。「え、どんな子だろー、イケメンだと良いなー」「隣の席になりますように……」って、願っている女子もいる。

全く、なんでその男子1人をそんなに気にするのか。どんな人なのか、会ってみないと分からないのに。

期待すればするほど、落胆は大きいもの。


その男子が入ってくる。

私の率直な感想。

真っ直ぐそう。


「では自己紹介をお願いします」

「僕の名前は、常磐颯です。隣の県から来ました。好きなことは、特にありません」

先生が戸惑う。

「ええと、好きなことじゃなくても、食べ物やスポーツだったりとか……」

「無いです」

この男子は、随分と首尾一貫だ。先生にナントカナントカって言われたらどうしよう、みたいな不安が更々無いのだろう。

「あ……。じゃあ、この学校生活の中で、見つけてみてください」

テキトーなことを言う先生。私はこの先生を信用できていない。生徒との約束は破るわ先生には怒られるわ、大変な先生なのだ。

だから!先生というのは、いいことを言ってそうで、実はあんまり中身がないことを発言する場合が多いということ。


あ。無駄な説明に時間を使ってしまった。

「急に決まったから、まだ準備できてないんです。席は……そうだ、星野さんの隣にしよう。星野さんは責任感も強いし、色々教えてくれそうだし」

「よろ」

ははははい⁈私って言いました?


でも。

責任感が強いし、やれることは全部やりたいのが私の性格。

そのせいで、イジメられた。ううん、意地悪された。

綺花ちゃんとその取り巻き達とは小学校も同じだった。

私は、選抜リレーの選手になったり代表委員に立候補して当選したりした。クラブは読書クラブ。

綺花ちゃん達には、真面目だとか嫌味を言われた。

そこから、どんどんヒートアップしていく嫌がらせ。

鉛筆を全部隠されて黒の色鉛筆で授業を受けるハメになった。突然目の前で泣き出されたりして先生に怒られる。

その先生は目の前で泣かれる事件以外、私のことを信用してくれていた。

お父さんがいないことも知れ渡ってしまった。


「おーい、星野さぁん?」

「す、すみませんっ。常磐さん、よろしくお願いします」

「よろ」

なんという軽い返事!こっちは敬語で話しているのに!

「……休み時間に、校舎の案内、私がしようか?」

「よろ」

もう。よろ、よろ、よろ!何度言えば気が済む訳っ。

我慢我慢。ここで感情を爆発させては、イメージ崩壊にも繋がってしまう。