「これを聞いても諦めるなら、俺はもう、何も言わない」
俺は最後にそう告げて、あいつの顔を真正面から見据えた。
伝えたいことはすべて伝えた。
あとは、あいつがこの言葉をどう受け止めるか。その一点だけだった。
沈黙が流れる中、佐原の表情がゆっくりと変わっていく。
それまでの重苦しい迷いが消え、嘘みたいにスッキリとした顔で、あいつは自嘲気味に口角を上げた。
「俺は諦める。好きだけど、大切だけど……やっぱり俺は、翔みたいに辛抱強くないからさ」
その言葉には、もう少しの迷いもなかった。
あいつはあいつなりに海緒を想い、
ぶつかり、そして自分の限界を知ったんだ。
「……そうか」
短く答える俺の声は、どこか安堵を含んでいたかもしれない。
あいつが海緒を諦めるのは、決して想いが軽かったからじゃない。
俺という男を認め、自分の不器用さを認めたからこその決断なのだと、今の言葉で痛いほど伝わってきたから。
張り詰めていた糸がふっと緩み、俺たちの間に、かつての親友としての空気が静かに戻り始めていた。



