だんだんと息をするタイミングを忘れてしまったのか、何度か深く角度を変えたところで、海緒にぐっと胸を押し返された。
そこでやっと、俺は自分がどれだけ無我夢中で彼女を求めていたかに気づき、名残惜しさを感じながらゆっくりと唇を離した。
『せ、せんぱい……い、一旦ストップ……っ』
呼吸を乱し、潤んだ瞳で必死に訴えかけてくる海緒。そのあまりの可愛さに、俺はつい声を立てて笑ってしまった。
「ふはっ、ごめんごめん。つい、な」
出会ったばかりの頃の彼女は、男という存在そのものに怯え、拒絶していた。そんな彼女がいま、俺の腕の中で赤くなって、大切な恋人として隣にいてくれる。
5月。もう雪なんて降るはずのないその時期に、一人だけ凍てつくような冬を纏っていた少女。
けれど、その雪はもう晴れたんだ。
今、目の前で呼吸を整えている海緒は、出会った時よりもずっと柔らかく、穏やかな表情で笑ってくれるようになった。
――守り抜く、一生かけて。
「海緒」
名前を呼ぶと、彼女は弾むような声で『はいっ』と短く返事をして、俺を振り返った。
そこにあったのは、かつての凍てつくような表情ではない。
眩しいほどに輝く、太陽のような笑顔。
その光に射抜かれながら、俺は一生をかけて守りたい宝物を抱きしめるように、彼女を見つめ返した。
「ずっとずっと、海緒の隣にいさせてください」
一瞬、りんごのように頬を鮮やかに染めた彼女は、少しだけ照れくさそうに。
けれど、もう二度と俺から目を離さないと言いたげな、強い意志をその瞳に宿して。
『ずっとずっと、隣にいさせてください……大好きです』
彼女の声が、静かな風に乗って俺の胸に溶け込んでいく。
重なり合う視線と、繋いだ手のぬくもり。
俺たちの長い冬は終わり、今、光に満ちた春が始まった。
5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。
-end-



