5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。






『……先輩……』





熱を帯びた瞳に涙を溜め、海緒が俺の名前を呼んだ。

俺は、震える彼女の手にそっと自分の手を重ねる。伝わってくる彼女の鼓動は、俺と同じように激しく脈打っていた。


返事を急かすようなことはしない。
ただゆっくりと、彼女の心が固まるのを待った。





『その……こんな私でいいと言ってくれるなら……。よろしく、お願いします……っ……』





搾り出すような、けれど確かな決意がこもった返事。


その言葉が聞こえた瞬間、俺の胸の中にあったすべての不安が、温かな幸福感へと塗り替えられた。






「……こちらこそ。絶対に幸せにするから」





俺の手を握り返す、彼女の指先の小さな力。
もう、彼女を一人で泣かせたりはしない。




月の光が降り注ぐ丘の上、俺たちはようやく、恋人として新しい一歩を踏み出したんだ。





「……早速お願い、って言ったらあれなんだけどさ」


俺が少し声を潜めて切り出すと、海緒は「は、はい、なんでしょう……?」と肩を強張らせて、緊張気味に聞き返してきた。



潤んだ瞳でじっと見つめられると、いじめたくなるような、守りたくなるような、奇妙な衝動に駆られる。





「海緒は……その、キスって、まだ怖いか?」

『えっ! あ……えっと……えっっ!?』





あからさまに動揺し、顔を真っ赤にして視線を泳がせる海緒。


その反応がもはや愛おしくて、俺は思わず口元を緩めた。
たった一言、キスの話題を出しただけでこんなに真っ赤になって焦って……。



この先、何十年生きていたとしても、これほど可愛いと思える相手には、もう二度と出会えない気がした。


答えを待つ間、俺は彼女の反応を逃さないように、わざと少しだけ顔を近づける。