5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。






「何をって……俺ら3年は合宿が終わったら、もう引退だろ。そのあとは受験の時期。……大事なこと、お前の『好き』って気持ち、言わなくていいの?」





あいつの声は、周囲の騒がしさに紛れてしまいそうなほど静かだったけれど、俺の鼓膜には驚くほど鮮明に響いた。






「…………」






昨日、あんなに激しくぶつかり合って、死ぬほど気まずい思いをしたはずなのに。


それなのに佐原は、もう自分のことではなく、俺の背中を押そうとしている。






「今言わなきゃ、きっと後悔するよ」





そう付け加えたあいつの横顔には、かつての焦燥感なんてどこにもなかった。
俺は握りしめた箸の指先に、少しだけ力を込めた。




「……今日の夜の練習メニュー、お前に任せてもいいか? 二人で話してきたい」





俺が意を決してそう切り出すと、佐原はわざとらしく深い溜息をついて肩をすくめた。





「しょうがないねー。こうでもしないと言えないもんね、翔は」

「はあ? んなことねーよ!」

「とか何とか言っちゃって。俺が何も言わなかったら、何も伝えないまま合宿終わろうとしてたろ、お前」





ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた佐原だったが、不意にその表情から茶化すような色が消えた。


スッと、今まで見たこともないような真剣な眼差しで俺を射抜く。






「……俺も、悔いが残らないようにこの合宿で全部伝えた。だからさ。お前も、ちゃんと伝えてこいよ」






その声には、自分自身の想いにケジメをつけた男にしか出せない、静かな凄みがあった。


俺が一番欲しかった言葉を、あいつは迷いなく差し出してくれたんだ。





「……ああ。伝えるよ」





短く答えて、俺はまっすぐ前を見据えた。
もう、迷っている暇なんてない。