……コンコン。
「海緒、入るぞ」
短くノックをしてから、俺は静かにドアを開けた。
部屋の中では、海緒がすでに体を起こしていた。
窓から差し込む柔らかな光を浴びながら、ぼんやりと空を眺めていた彼女は、俺たちの姿に気づくと少しだけ肩を揺らした。
『……あっ、すみません。わざわざ……部屋まで持ってきていただいて』
申し訳なさそうに眉を下げる彼女に、俺はトレイを抱え直して歩み寄る。
「全然。体調は大丈夫か?」
『はい、もう落ち着いてます。……ご心配をおかけしました』
無理に作ったものではない、穏やかな微笑み。
けれど、ふとした瞬間に彼女の視線が俺の背後へと向けられた。俺のすぐ後ろで、バツの悪そうな顔をして立ち尽くしている佐原の姿を、彼女はそっと盗み見る。
一瞬だけ重なった二人の視線。
部屋の中に、期待と不安が入り混じったような、不思議な沈黙が流れた。



