『お前以外、愛せない』        ――元カノがいたはずの俺様王子くん、私への執着が暴走中!?ーー

 文化祭の出し物を決める学級会。
 

黒板に大きく書かれたのは、多数決で決まった『ロミオとジュリエット』の文字だった。


「……嘘、ロミジュリ?」


 私は思わず小さく声を漏らした。


 だって、それは愛し合う二人が最後には死んでしまう、世界で一番有名な悲劇だ。


「よし、じゃあ次は主役決めだな!」


 クラスの男子が茶化すように言うと、視線は一斉に教室の特等席――瀬戸春兎へと集まる。


「ロミオは瀬戸くんで決まりでしょ!」


「ジュリエットは……やっぱり、最近ずっと一緒にいる一ノ瀬さんじゃない?」


 教室中が「お似合い!」「最高!」と盛り上がる中、私の心臓は嫌な予感でバクバクと鳴っていた。


 チラリと斜め後ろを振り返ると、春兎はいつもみたいに不敵に笑っていなかった。


 彼は黒板の文字を、まるで親の仇でも見るような冷めた目で見つめている。


「……おい、月夜。これ、お前が仕組んだのか」


 春兎が隣の席の月夜くんに、低く、地を這うような声で言った。


 月夜くんは手に持ったパズル雑誌から顔を上げず、口角だけをわずかに上げる。


「まさか。みんなが『結ばれない二人』を見たいって思っただけだよ。……瀬戸くん、嫌なの? 空音さんと一緒に、悲劇のヒロインを演じるのが」


「……ふざけんな」


 春兎は椅子を激しく鳴らして立ち上がると、私の手首をクラスメイトたちの前で乱暴に掴んだ。


「空音と俺が『結ばれない』だと? ……縁起でもねーこと言ってんじゃねえよ。たとえ劇だとしても、俺はこいつを離す気なんてねーからな」


 春兎の瞳には、劇の配役を喜ぶ余裕なんて微塵もなかった。


 一年前、一度は本当に疎遠になって「結ばれなかった」過去があるから。


 クラス中が静まり返るほどの執着を孕んだ春兎の瞳。


 こうして、私たちは学校中の注目を浴びながら、呪われた「悲劇」の舞台へと引きずり込まれていった――。