太陽と狐は「」をする

「誠に申し訳ありません、叔母様」

「謝らない! 謝れば舐められてしまうわ」

「はい、承知致しました」



 指導者たる者、謝ってはならず、頼ってはならず、弱音を吐いてはならない。
 しかし、奢ってもならず、差別をすることも許されない。
 神であるなら、指導者であるなら、そうあらなければならない。

 それは、灯が神子になってから常に言われ続けてきた言葉だった。



(わかっているけれど……)



 叔母が灯のことを思って発言しているのは百も承知だ。
 これでも十数年を共にしてきているのだし、真意なんて手に取るようにわかる。
 姪が天照大御神として大成できるように、侮られたり苦しんだりすることのないように。決して恨みつらみではなく、思いやりと愛を持って話しているのだ。

 それはわかる。わかっている。
 それでも、その愛と期待が息苦しかった。



「……時間を裂かせてしまって悪かったわ。
 勉学に励みなさい」

「わかりました、叔母様」



 叔母が消えて、静寂が戻る。
 灯は小さく溜息をついてから、後ろに控えている己の侍女の元へ振り向き、伝えた。



「……学習用具を落としてしまったの。
 拾っていただける?」

「はい、承知いたしました」



 動いたのは、灯が神子に選ばれた時からそばにいる灯専用の侍女。

 神子に選ばれたのが灯が十の時のはずで、もうすぐ灯が十六を迎えることを考えればもう五年以上の付き合いにはなるだろうか。
 だというのに、灯は彼女の名前を聞いたことがない。それだけではない。好物も趣味も出身も年齢も、なんの神かすら灯は知らない。

 常に側に立ち、灯が何か願えばそれを叶える。必要以上の会話や雑談はしない。
 叔母は『神子への忠誠心に溢れた素晴らしい従者よ』と言っていたが、灯にとってそれは、“余計なお世話”というものなのだ。

 願わくば、歳が近いのだから話してみたい。名前を知りたい。心を許せる友人になってみたい。