お兄ちゃんの、いる場所。



二年生の秋、
学年でも人気の男の子に放課後の教室で呼び出された。


「好きだ」
と言われて、
私は一瞬、どう答えればいいかわからなくなった。


​「……ごめんなさい」


​断ると、彼は少し傷ついたような、
納得がいかないような顔をして、


「好きな人でもいるの?」と私に聞いた。
「わからない」としか答えられなかった私は、
その夜、親友に電話でそのことを相談した。


​「好きな人がいるの?」


「……わかんない」


「じゃあ、気になる人とか、いいなと思ってる人とかは?」


「多分、いないと思う」


​そう答えると、
親友は不思議そうに

「じゃあなんで断ったの?」と食い下がってきた。


私は、
心の奥にずっとしまっていた、
誰にも触れさせたくない宝物のことを、ほんの少しだけ口にした。


​「……忘れられない人がいるんだ」


​電話の向こうで親友が息を呑むのがわかった。


「!? ど、どんな人?」


「幼なじみの、優しいお兄ちゃん」


​それからたくさんの思い出話をした。

亡くなったってことは言わなかったけれど、
憧れて、背中を追いたくて、隣に行きたくて、
同じ中学校に行ったこととか。


親友が少し落ち着いた声で言った。


「それ……初恋じゃないの?」


​心臓が、ドクンと大きく跳ねた。


恋。


その言葉が、
霧がかかっていた私の心に、鮮やかな光を落とした。


​誰かと付き合いたいとか、
そんな現実的なものじゃない。


ただ、あの白い花に囲まれた笑顔が、
今でも私の中で一番綺麗で、一番温かい。


他の誰かの「好き」が心に届かないくらい、
私の心は、ずっと一人で満たされていたんだ。


​「そうか……初恋だったんだ」


​電話を切ったあと、
私は暗い部屋の中で一人でつぶやいた。


もう会えないけれど。
私の成長を、本当の意味で隣で見ていてはくれないけれど。


私の心は、
ずっとずっと、蓮にーちゃんに恋をしていたんだね。