幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 今日はめちゃくちゃ暑い。
 冷房が効いた音楽室にいたはずなのに、閉め切った窓からジリジリと伝わる熱気のせいか、合奏に集中していたらじんわりと汗をかいていた。

 部活が終わってせっせと楽器を片付け、トイレに向かう。
 早足で廊下を歩きながら、スマホでなっちゃんにメッセージを入れておいた。

『終わったよ! 時間通りに着きそう』

 トイレの鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。

(……うわ! ボサボサかも)

 湿気と汗で崩れかけていたポニーテールを急いで結び直し、ほんのり色づくリップを塗った。
 再度、鏡の中をじっと覗き込んで仕上がりを確認していると、個室から葵が出てきた。

「あっ、今日だっけ? 初デート」

 そわそわしている私に気づき、葵が尋ねる。

「うんっ!」

 私が元気に答えると、葵は手を洗いながら微笑んだ。


 なっちゃんと付き合ったことは、葵に一番最初に伝えた。
 葵は「えー! よかったねえ、朝井くん」と、すぐになっちゃんの名前を出した。

「えっ!? 葵、なっちゃんの気持ち知ってたの!?」

 私が驚いて聞き返すと、葵は当然というような顔で頷いた。

「うん。だって、朝井くんめちゃくちゃわかりやすくない?」

「えっ……」
(そうだったんだ……! やっぱり、私が絶望的に鈍感なだけなのか……)

 なっちゃんの『いい加減、気づけって』という言葉が思い出され焦る私に、葵は続けた。

「だから、朝井くんは置いといて。めぐの『好き』は、幼馴染としての『好き』なのかな、どうなんだろうって思ってたんだけど……そっかあ」

 普段はクールな葵が嬉しそうに目を細める姿を見て、私はなんだかすごく照れくさくなってしまった。

「……葵〜!」

 思わず飛びつくように抱きつくと、葵も「えっ、何?」と戸惑いながら照れていた。


 そんなことを思い出しながら、トイレを出て途中まで一緒に廊下を歩き、私はそのまま下駄箱へ、葵は荷物を取りに音楽室へと戻っていく。

「じゃあ、楽しんでね〜」とひらひら手を振ってくれた葵に、「ありがとうっ!」と元気いっぱい手を振り返して別れた。