幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。

 ソファでは、母さんが雑誌を読んでくつろいでいた。
 今日は平日だが、一日休みか半日休みか、とりあえず家にいるらしい。

「夏樹、なんかうなされてなかった?」

 部屋の外まで聞こえていたようだ。

「んー」

 生返事をしながら冷蔵庫を開け、麦茶のペットボトルを取り出し、直接喉に流し込んだ。

「……出かけるわ」

 そして、ぼそりと伝える。

「はーい。どこに?」

「……まだ決まってない」

 本当は決まっているものの、適当な嘘をついた。

「ふーん。誰と?」

「…………」

 誰の名前を出そうかと考えていると、母さんは僕の答えを待たずに言った。


「もしかして……めぐちゃん?」


 洗面所に向かおうとしていた僕は、バッと振り返った。

「な……なんで?」

 声が裏返った僕を見て、母さんはおかしそうに笑った。

「動揺しすぎ! いや、もしかして、付き合ってたりするのかなと思って」

「……え、いや、だからなんで?」

 母さんは、ニヤニヤしながら続ける。

「えー、だって。最近なんかそわそわしてるし、ちょこっとした外出も増えたじゃない? なーんか二人とも、一緒にいる時の雰囲気が前と違うし」

「…………」

 親にバレたら、冷やかされたりして面倒くさそうだから、一旦まだ内緒にしておこうとめぐみと話していたのに。
 二人とも、ちゃんと隠せているつもりだったのに。
 おそるべし――母の勘。

 図星を突かれて何も言えなくなった僕を見て、母さんは再び雑誌に目を戻し、ぽつりと言った。

「……大事にしなさいよ?」

「……わかってるって」

 照れ隠しから、ぶっきらぼうに返し、逃げるように洗面所へと向かった。

 先ほどシャワーを浴びて無造作に乾かしただけの短い髪に、ワックスを付けて整える。

(……よし)

 鏡の中の自分に向かって、心の中で気合を入れた。

 母さんに「あらっ。お洒落にキメたのね〜」などとからかわれたくないので、姿を見られないよう速やかに玄関へ向かう。

「……いってきます」

 そして、言い逃げして出かけた。