幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。【完結】

 部活を終え、帰り際に下駄箱を見ると、まだめぐみのローファーは残っていた。
 演奏会の追い込みで、時間いっぱいまで練習するのだろうか。

 会えないかなと少し期待していた心を隠しつつ、「朝井、行くぞー」という同期の声かけに「おー」と応えて昇降口を出た。

 ◇

 その後、駅前のファーストフード店でポテトをつまみながら同期たちとくだらない話ばかりしていたら、すっかり遅い時間になってしまった。

 マンションに着き、自分の家のドアを開ける。
「おかえり〜」
 リビングの方から、母さんの声が聞こえた。
「……ただいま」

 靴を脱いでリビングに入った瞬間。
 ふわっと、甘くて優しい、よく知っている香りがした気がした。

 シャンプーのような、柔軟剤のような――あの香り。

「ごはん、食べてきたのよね?」
 母さんがダイニングテーブルの上にあった二つのマグカップを片付けながら聞いてくる。

 さっきの残り香と、その二つのカップを見て、僕はその問いかけに答えるより先に聞き返した。

「……めぐ、来てた?」
「あら、よくわかったわね」
 母さんは少し驚いたように目を丸くした。
「ついさっきまでいたのよ。夏樹に何か用がありそうだったんだけど、あんたが遅いから〜」
「……っ!」
 その言葉を最後まで聞く前に、僕はリュックを床に放り投げ、慌てて家を飛び出していた。
 閉まりかけの玄関の扉の向こうから、「ちょっと。もう遅いんだから明日にしたらー?」と咎める声が聞こえた気がしたが、無視した。


 マンションの階段を一段飛ばしで駆け上がり、めぐみの家の前に立つ。
 たしかに遅い時間だが、僕は遠慮がちに、祈るような気持ちで「ピーンポーン」とインターホンを鳴らしてみた。

 ……が、誰も出ない。

 お風呂に入ったりしてるのか……?
 それとも、また前みたいにヘッドホンで音楽でも聴いてるのかも……。
 居ても立っても居られず、僕はポケットからスマホを取り出し、めぐみにメッセージを送った。

『ごめん、今帰ってきた』

 そのまま扉の前でしばらく待ってみたが、既読もつかず、なかなか返事も来ない。

「……はあ」
 僕は諦めて深いため息をつき、自分の家へと戻った。

 ◇

 シャワーを浴びて風呂から上がるとすぐに、ベッドの上にあるスマホを手に取り、画面を確認する。
 めぐみからの通知が一件、入っていた。

『おかえり。遅いからまた明日行くね』

 たった一言のそのメッセージを見て、僕は「はああああっ」と大きなため息をつきながら、スマホをベッドに投げつけた。

(……くそっ、タイミング悪い……!)
 あと十五分、いや十分早くファーストフード店を出ていれば。

 めぐみが僕に用事って……まさか、あの返事なんじゃないのか?

 いろんな想像が頭を駆け巡り、僕はもう何度目かわからない肩透かしにすっかり落胆しながら、『明日行くね』という言葉を胸に、無理やり重い目を閉じて眠りについた。