「めぐちゃん」
ぐるぐると悩みながら校門を出ようとした時、不意に声をかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのは、織くんだった。
うだるような暑さだというのに、彼は汗一つかいておらず、相変わらず涼しげで爽やかだ。
「織くん! お疲れ。写真部も、この時間までやってたんだね」
「うん。今、文化祭の時の写真を現像して、クラスのアルバム作ってるんだ」
「えーっ、楽しみすぎる! 完成したら見てもいい?」
私が目を輝かせて聞くと、彼は「もちろん」と優しく微笑んでくれた。
織くんはいつも電車通学のはずだが、今日は「こっちの方角に行きたいお店があるから」と言うので、途中まで一緒に並んで歩くことになった。
彼の纏う、ふんわりとした柔らかくて優しい雰囲気に気を許してしまったのか、私は歩きながら、思わずこんな質問を口にしていた。
「……ねえ。織くんって、好きな人とかできたことある?」
「えっ。……急だね」
いつもほんわかしている彼の瞳が、珍しく大きく見開かれた。
「あ、ごめん! 変なこと聞いて……」
私は慌てて謝った。
実は、なっちゃんから告白されたことや自分のこのモヤモヤした気持ちについて、女の子の友達にも、誰にも、葵にさえもまだ相談できていなかったのだ。
自分の中で抱えきれなくなって、ついこぼれ出てしまった。
「……そりゃあ、あるよ」
少し歩いた後、織くんがぽつりと呟いた。
「……どんな感じ?」
私が恐る恐る聞くと、織くんは「うーん」と少し空を見上げて考え込んだ。
「俺は……他の人と比べると、好きな人に対してあまり多くを望まないタイプかも」
ゆっくりと、言葉を探すように紡いでいく。
「その人と会えるだけで嬉しいし、その人が幸せそうだと嬉しい。……たとえ、その人を笑顔にしているのが、自分じゃなかったとしても……みたいな」
「なるほど……。なんか、無償の愛みたいな感じだね」
私が感心して言うと、織くんは「ハハ、そんな偉そうなもんじゃないけど」と照れたように笑った。
「我慢しているとかじゃなくて、ただ単に無欲なのかも。……人それぞれで、好きの形って違いそうだよね」
(人それぞれで、形が違う……)
私はどうだろうか。
もし、なっちゃんが他の女の人と一緒にいて、幸せそうに笑っていたら……。
(…………)
その姿を想像しただけで。
胸の奥を鋭いナイフでえぐられたように痛くて、息が上手く吸えなくなった。
だめだ。
私は、絶対に織くんみたいには笑えない。
あのぶっきらぼうで、口が悪くて、でも誰よりも私を真っ直ぐに見てくれるなっちゃんの隣は――私以外の誰かに取られたくないよ。
「じゃあ、ここで」
歩いているうちに、昔からある写真屋さんのようなお店の前に着き、織くんが立ち止まった。
「うん! バイバイ。また明日ね」
私が手を振って歩き出そうとした時だった。
「……めぐちゃん!」
背後から呼ばれて振り返る。
「? うん?」
織くんはこちらを真っ直ぐに見つめ、いつも以上に柔らかい笑顔で、優しく言った。
「……ファイト!」
「……えっ?」
予想外の言葉に、私はきょとんとしてしまった。
(……もしかして私が考えてること、何かバレてた……?)
少し焦りながらも、彼の温かいエールが不器用な私の背中を押してくれたような気がして。
「……うんっ? ありがと!」
私は、今日一番の笑顔で彼に手を振り返したのだった。
ぐるぐると悩みながら校門を出ようとした時、不意に声をかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのは、織くんだった。
うだるような暑さだというのに、彼は汗一つかいておらず、相変わらず涼しげで爽やかだ。
「織くん! お疲れ。写真部も、この時間までやってたんだね」
「うん。今、文化祭の時の写真を現像して、クラスのアルバム作ってるんだ」
「えーっ、楽しみすぎる! 完成したら見てもいい?」
私が目を輝かせて聞くと、彼は「もちろん」と優しく微笑んでくれた。
織くんはいつも電車通学のはずだが、今日は「こっちの方角に行きたいお店があるから」と言うので、途中まで一緒に並んで歩くことになった。
彼の纏う、ふんわりとした柔らかくて優しい雰囲気に気を許してしまったのか、私は歩きながら、思わずこんな質問を口にしていた。
「……ねえ。織くんって、好きな人とかできたことある?」
「えっ。……急だね」
いつもほんわかしている彼の瞳が、珍しく大きく見開かれた。
「あ、ごめん! 変なこと聞いて……」
私は慌てて謝った。
実は、なっちゃんから告白されたことや自分のこのモヤモヤした気持ちについて、女の子の友達にも、誰にも、葵にさえもまだ相談できていなかったのだ。
自分の中で抱えきれなくなって、ついこぼれ出てしまった。
「……そりゃあ、あるよ」
少し歩いた後、織くんがぽつりと呟いた。
「……どんな感じ?」
私が恐る恐る聞くと、織くんは「うーん」と少し空を見上げて考え込んだ。
「俺は……他の人と比べると、好きな人に対してあまり多くを望まないタイプかも」
ゆっくりと、言葉を探すように紡いでいく。
「その人と会えるだけで嬉しいし、その人が幸せそうだと嬉しい。……たとえ、その人を笑顔にしているのが、自分じゃなかったとしても……みたいな」
「なるほど……。なんか、無償の愛みたいな感じだね」
私が感心して言うと、織くんは「ハハ、そんな偉そうなもんじゃないけど」と照れたように笑った。
「我慢しているとかじゃなくて、ただ単に無欲なのかも。……人それぞれで、好きの形って違いそうだよね」
(人それぞれで、形が違う……)
私はどうだろうか。
もし、なっちゃんが他の女の人と一緒にいて、幸せそうに笑っていたら……。
(…………)
その姿を想像しただけで。
胸の奥を鋭いナイフでえぐられたように痛くて、息が上手く吸えなくなった。
だめだ。
私は、絶対に織くんみたいには笑えない。
あのぶっきらぼうで、口が悪くて、でも誰よりも私を真っ直ぐに見てくれるなっちゃんの隣は――私以外の誰かに取られたくないよ。
「じゃあ、ここで」
歩いているうちに、昔からある写真屋さんのようなお店の前に着き、織くんが立ち止まった。
「うん! バイバイ。また明日ね」
私が手を振って歩き出そうとした時だった。
「……めぐちゃん!」
背後から呼ばれて振り返る。
「? うん?」
織くんはこちらを真っ直ぐに見つめ、いつも以上に柔らかい笑顔で、優しく言った。
「……ファイト!」
「……えっ?」
予想外の言葉に、私はきょとんとしてしまった。
(……もしかして私が考えてること、何かバレてた……?)
少し焦りながらも、彼の温かいエールが不器用な私の背中を押してくれたような気がして。
「……うんっ? ありがと!」
私は、今日一番の笑顔で彼に手を振り返したのだった。



