期末テストもようやく終わり、部活が完全再開して、放課後にコンクールや定期演奏会の練習に打ち込めるのがすごく嬉しい。
今は合奏前のウォーミングアップの時間。
音楽室には、各々で音出しをしているいろんな楽器のいろんな音が混ざり合い、カオスのような大変な音量が響き渡っていた。
ふと前を見ると、指揮台の横で顧問の先生と部長の先輩が何やら真剣な顔で打ち合わせをしている。
その時、顧問の先生が話しながら、自分の胸の前でギュッと両手を合わせた。
何気なくその姿を見た瞬間――ある場面が、急に私の脳裏に鮮明によみがえった。
『……イヤだったら言って』
文化祭の打ち上げの後の帰り道。
初夏のぬるい夜風の中、なっちゃんに手を握られた、あの瞬間の記憶だ。
「…………っ!」
思わず、咥えていたサックスのリードにギュッと変な力が入ってしまい、「ピィッ!」と間の抜けた音が裏返ってしまった。
隣に座るパートリーダーの先輩に「?」と不思議そうな視線を向けられ、私は慌てて「ンンッ!」と咳払いで誤魔化した。
やがてパンパンと手を叩く音がして合奏が始まり、私は必死に邪念を払って、真っ直ぐに先生の指揮棒に集中した。
◇
部活が終わり、下駄箱で「おつかれ〜!」と言い合って同級生たちを見送った。
私は徒歩帰りなので、ひとりで自分の下駄箱を開け、ローファーをトントンと履く。
時刻は最終下校時刻ぴったり。
けれど、真夏で日が長いため、外はまだオレンジ色の夕陽で眩しいくらいに明るかった。
ふと、視線をずらしてなっちゃんの下駄箱を見る。
外靴はもうなく、空っぽだった。
(……もう帰ったんだな)
少しの安堵と、寂しさを感じた。
なっちゃんはここ最近、他クラスの女の子に呼び出されて告白されているようだ。
一応どの子も断っているみたいだけど……。
中学の時、なっちゃんの背が急に伸びて「なっちゃんフィーバー」が到来したときのことが思い出される。
みんな、文化祭での彼の歌声に射止められてしまったのだろうか。
呼び出された場所から彼が教室に帰ってくるまで、私は気にしていないように必死に笑顔をつくりながらも、内心は心ここにあらずだった。
待たせているのは、自分のくせに……。
なっちゃんには、まだはっきりと自分の気持ちの「返事」を伝えられていない。
なんせ、五、六歳の頃からずっと一緒にいる幼馴染なのだ。
近すぎて、当たり前すぎて……だからこそ、余計に感情がこんがらがっている気がする。
「幼馴染として」でいうなら、もちろんなっちゃんのことは大好き。
一緒にいて楽しいし、気を使わないし、どこか抜けている私に呆れながらも助けてくれる。
たとえちょっとそっけなくても、怒っている時も、全部ひっくるめて好きだ。
でも、なっちゃんが私に言った「好き」は、そういう意味ではない。
さすがの私でも、それくらいはわかる。
じゃあ、私はなっちゃんを……「そういう意味」で好きなんだろうか。
夕陽に照らされたアスファルトを歩きながら、自問自答を繰り返す。
ステージで歌う彼の姿から、一秒たりとも目が離せなくなってしまったこと。
彼の言葉に、耳の先まで真っ赤になってしまうこと。
他の女の子に彼が笑顔を向けようとしているところから、いつも目をそらしてしまうこと。
そして……あの夜、繋がれた手を、そっと握り返してしまったこと。
これが、恋愛としての『好き』ってことで、いいんだろうか……。
今は合奏前のウォーミングアップの時間。
音楽室には、各々で音出しをしているいろんな楽器のいろんな音が混ざり合い、カオスのような大変な音量が響き渡っていた。
ふと前を見ると、指揮台の横で顧問の先生と部長の先輩が何やら真剣な顔で打ち合わせをしている。
その時、顧問の先生が話しながら、自分の胸の前でギュッと両手を合わせた。
何気なくその姿を見た瞬間――ある場面が、急に私の脳裏に鮮明によみがえった。
『……イヤだったら言って』
文化祭の打ち上げの後の帰り道。
初夏のぬるい夜風の中、なっちゃんに手を握られた、あの瞬間の記憶だ。
「…………っ!」
思わず、咥えていたサックスのリードにギュッと変な力が入ってしまい、「ピィッ!」と間の抜けた音が裏返ってしまった。
隣に座るパートリーダーの先輩に「?」と不思議そうな視線を向けられ、私は慌てて「ンンッ!」と咳払いで誤魔化した。
やがてパンパンと手を叩く音がして合奏が始まり、私は必死に邪念を払って、真っ直ぐに先生の指揮棒に集中した。
◇
部活が終わり、下駄箱で「おつかれ〜!」と言い合って同級生たちを見送った。
私は徒歩帰りなので、ひとりで自分の下駄箱を開け、ローファーをトントンと履く。
時刻は最終下校時刻ぴったり。
けれど、真夏で日が長いため、外はまだオレンジ色の夕陽で眩しいくらいに明るかった。
ふと、視線をずらしてなっちゃんの下駄箱を見る。
外靴はもうなく、空っぽだった。
(……もう帰ったんだな)
少しの安堵と、寂しさを感じた。
なっちゃんはここ最近、他クラスの女の子に呼び出されて告白されているようだ。
一応どの子も断っているみたいだけど……。
中学の時、なっちゃんの背が急に伸びて「なっちゃんフィーバー」が到来したときのことが思い出される。
みんな、文化祭での彼の歌声に射止められてしまったのだろうか。
呼び出された場所から彼が教室に帰ってくるまで、私は気にしていないように必死に笑顔をつくりながらも、内心は心ここにあらずだった。
待たせているのは、自分のくせに……。
なっちゃんには、まだはっきりと自分の気持ちの「返事」を伝えられていない。
なんせ、五、六歳の頃からずっと一緒にいる幼馴染なのだ。
近すぎて、当たり前すぎて……だからこそ、余計に感情がこんがらがっている気がする。
「幼馴染として」でいうなら、もちろんなっちゃんのことは大好き。
一緒にいて楽しいし、気を使わないし、どこか抜けている私に呆れながらも助けてくれる。
たとえちょっとそっけなくても、怒っている時も、全部ひっくるめて好きだ。
でも、なっちゃんが私に言った「好き」は、そういう意味ではない。
さすがの私でも、それくらいはわかる。
じゃあ、私はなっちゃんを……「そういう意味」で好きなんだろうか。
夕陽に照らされたアスファルトを歩きながら、自問自答を繰り返す。
ステージで歌う彼の姿から、一秒たりとも目が離せなくなってしまったこと。
彼の言葉に、耳の先まで真っ赤になってしまうこと。
他の女の子に彼が笑顔を向けようとしているところから、いつも目をそらしてしまうこと。
そして……あの夜、繋がれた手を、そっと握り返してしまったこと。
これが、恋愛としての『好き』ってことで、いいんだろうか……。



