◇
数曲歌い終え、僕が「ちょっとトイレ」と部屋を出た。
用を済ませて戻ってくると、入れ替わりですぐに、めぐみが両手に空のコップを持って部屋を出て行く背中が見えた。
(あいつ……わざと俺とタイミングずらそうとしてんな)
彼女の意図にハッキリと気づき、カチンと対抗心が燃え上がった。
(……そうはさせるか)
「……ちょっとごめん、トイレにスマホ忘れたかも」
僕は周囲に適当な嘘をつき、ついさっき通ったばかりの道――テーブルとクラスメイトたちの足のわずかな隙間――を再び無理やり抜け、重い防音扉を開けて外に出た。
廊下に出ると、突き当たりにあるドリンクバーでボタンを押しているめぐみの背中が見えた。
あまり足音を立てないようにして背後に迫る。
部屋に戻ろうと振り返った彼女は、目を真ん丸にして固まった。
僕は無言のまま、両手に並々とジュースの入ったコップを持っている彼女の両手首を掴み、廊下の死角になっている非常階段のスペースへと強引に連れ込んだ。
「……あのさ。なんで避けるの?」
壁際に追い詰め、少し見下ろすようにして聞く。
めぐみはバツが悪そうに視線を泳がせ、「いや……えっと……ごめんなさい」と小さな声で謝った。
いや、謝ってほしいわけではない。
彼女の本当の言葉を聞きたいだけなのだ。
何から話そうかと考えたあと、まずは核心に触れる質問を投げた。
「……昨日のライブ、どうだった?」
「……感動したよ」
「えーっと……なっちゃんが、本当に歌上手だった」
そんな、誰でも言える当たり障りない感想がほしいわけでもない。
めぐみの本当の気持ちが少しでも透けて見える言葉がほしかった。
そんな思いを込めて、彼女にさらに一歩、距離を近づける。
少しの間黙っていたあと、彼女がギュッと唇を噛み締め、薄く開いて言った。
「……すごく気持ちがこもってたから、好きな人を想って歌ってるのかなって、思ったよ」
めぐみは視線を落としていて、絶対に目を合わせようとしない。
(あ……)
もしかしてやっぱり、僕が由利さんか別の誰かを好きだと思い込んでいるのか。
でも……それで今、彼女が目に見えて沈んでいるんだとしたら、やっぱりめぐみの気持ちは……。
僕は、核心を突くように問いかけた。
「……好きな人、誰だか知りたい?」
めぐみはまだ下を向いたまま、か細い声で答える。
「……知りたくない」
(え……)
その拒絶は、『それが自分だったら困るから』とか、『なっちゃんとはずっと幼馴染でいたいから』とか、そういう理由じゃないよな……?
「……なんで」
ストレートに理由を聞く。
めぐみが黙り込んでしまい、急激に不安が押し寄せてくる。
彼女の答えを待つ数秒間が、永遠のように長く感じられた。
「……イヤ、だから」
ポツリと、彼女がそう言った。
僕が他の人を好きなのが……嫌……?
じゃあ、めぐみも、僕を……。
目を見開いて彼女を見つめていると、彼女がゆっくりと顔を上げた。
ここでやっと――ちゃんと目が合った気がした。
数曲歌い終え、僕が「ちょっとトイレ」と部屋を出た。
用を済ませて戻ってくると、入れ替わりですぐに、めぐみが両手に空のコップを持って部屋を出て行く背中が見えた。
(あいつ……わざと俺とタイミングずらそうとしてんな)
彼女の意図にハッキリと気づき、カチンと対抗心が燃え上がった。
(……そうはさせるか)
「……ちょっとごめん、トイレにスマホ忘れたかも」
僕は周囲に適当な嘘をつき、ついさっき通ったばかりの道――テーブルとクラスメイトたちの足のわずかな隙間――を再び無理やり抜け、重い防音扉を開けて外に出た。
廊下に出ると、突き当たりにあるドリンクバーでボタンを押しているめぐみの背中が見えた。
あまり足音を立てないようにして背後に迫る。
部屋に戻ろうと振り返った彼女は、目を真ん丸にして固まった。
僕は無言のまま、両手に並々とジュースの入ったコップを持っている彼女の両手首を掴み、廊下の死角になっている非常階段のスペースへと強引に連れ込んだ。
「……あのさ。なんで避けるの?」
壁際に追い詰め、少し見下ろすようにして聞く。
めぐみはバツが悪そうに視線を泳がせ、「いや……えっと……ごめんなさい」と小さな声で謝った。
いや、謝ってほしいわけではない。
彼女の本当の言葉を聞きたいだけなのだ。
何から話そうかと考えたあと、まずは核心に触れる質問を投げた。
「……昨日のライブ、どうだった?」
「……感動したよ」
「えーっと……なっちゃんが、本当に歌上手だった」
そんな、誰でも言える当たり障りない感想がほしいわけでもない。
めぐみの本当の気持ちが少しでも透けて見える言葉がほしかった。
そんな思いを込めて、彼女にさらに一歩、距離を近づける。
少しの間黙っていたあと、彼女がギュッと唇を噛み締め、薄く開いて言った。
「……すごく気持ちがこもってたから、好きな人を想って歌ってるのかなって、思ったよ」
めぐみは視線を落としていて、絶対に目を合わせようとしない。
(あ……)
もしかしてやっぱり、僕が由利さんか別の誰かを好きだと思い込んでいるのか。
でも……それで今、彼女が目に見えて沈んでいるんだとしたら、やっぱりめぐみの気持ちは……。
僕は、核心を突くように問いかけた。
「……好きな人、誰だか知りたい?」
めぐみはまだ下を向いたまま、か細い声で答える。
「……知りたくない」
(え……)
その拒絶は、『それが自分だったら困るから』とか、『なっちゃんとはずっと幼馴染でいたいから』とか、そういう理由じゃないよな……?
「……なんで」
ストレートに理由を聞く。
めぐみが黙り込んでしまい、急激に不安が押し寄せてくる。
彼女の答えを待つ数秒間が、永遠のように長く感じられた。
「……イヤ、だから」
ポツリと、彼女がそう言った。
僕が他の人を好きなのが……嫌……?
じゃあ、めぐみも、僕を……。
目を見開いて彼女を見つめていると、彼女がゆっくりと顔を上げた。
ここでやっと――ちゃんと目が合った気がした。



