「……誰?」
ベンチに戻ると、由利さんが控えめに尋ねてきた。
「同じクラスの、幼馴染の兄ちゃん。あ、幼馴染っていうのは、バンドで初めて音合わせた日に、プレハブ覗きに来てたやつで……って、覚えてないか」
苦笑いしながら言うと、由利さんは口を開いた。
「……あの、髪ふわふわで可愛い子?」
「あー、そう。覚えてたんだ」
(……って。あ)
彼女がめぐみを覚えていたことに驚きながら、『可愛い子?』という問いに『そう』と無意識で肯定している自分に気づき、言葉を詰まらせた。
そんな僕の顔をじっと見つめていた彼女が、静かなトーンで言う。
「……あの子が好きなの?」
「……え!? なぜ!?」
図星を突かれ、思わず大きな声を出して激しく動揺してしまった。
由利さんにめぐみの話をしたのは、今が初めてのはずなのに。
(俺って……そこまでわかりやすいのか!?)
「……朝井くんの歌聴いて、絶対、すごく好きな人がいるんだろうなって思ってて」
由利さんは、真っ直ぐ前を見つめたまま続けた。
「あの子の話をしてる時、すごく嬉しそうな顔してたから。試しに、聞いてみた」
(……試し、かよ……)
見事にカマかけに引っかかり、顔に出して動揺してしまった自分に呆れて、思わず頭を抱えた。
僕のその態度を「肯定」と受け取った彼女は、「そうなんだね」と小さく呟いた。
疲労や寝不足で頭が回らず、今さら気の利いた誤魔化しも思いつかない。
それに、もう誤魔化さなくてもいいかと思い直し、僕は観念して「……うん」と頷いた。
すると、由利さんがベンチからスッと立ち上がり、僕の前に立って言った。
「私は……朝井くんが好き」
「……へ?」
突然の言葉に、僕は間抜けな声を聞き返してしまった。
「好きって?」
「そのままの意味」
由利さんは、表情を変えずにハッキリと言い切った。
「……俺、好きな人教えたばっかりじゃなかった?」
困惑して尋ねると、彼女は「うん」と頷く。
「でも、彼女ではないんでしょ? だったら、いいじゃない」
「…………」
完全に呆気にとられた。
大人しそうな見た目に反して、ものすごく真っ直ぐで、強引だ。
だが、曖昧な態度をとって、めぐみに変な誤解をされるわけにはいかない。
僕は腹を括り、真剣な顔を作って言った。
「……いや、よくないわ。ごめん」
明確な拒絶。
それでも由利さんは、引かなかった。
「でも、私の気持ちだもん。自由でしょ?」
(え、こいつ……強い……)
圧倒されて言葉を失う。
だが、ふと彼女が体の前で握っている両手を見ると――その白い指先が、微かに、けれどハッキリと震えていた。
(……勇気、出してくれたのか)
その震えに気づいた瞬間、彼女の不器用な強がりが理解できて、僕はそれ以上突き放す言葉を紡げなくなった。
由利さんは「ふう」と小さく息を吐くと、再び僕の隣に座り直した。
「……告白されるの、慣れてそうだね。モテそうだもん」
少しだけトーンを落として、ぽつりと言う。
「……いや、そんなことないけど」
僕は否定したが、由利さんはそれを謙遜と受け取ったのか、少し意地悪な響きを含ませて言った。
「モテるのに、自分の好きな子とはまだ付き合えてないんだね」
痛いところを的確に抉られ、僕は思わず反射的に叫んでいた。
「……うるさいわっ!」
(……あ)
言ってから、すぐにやばいと焦った。
めぐみの話題だったからとはいえ、他の女子に対して『無難スマイル』を剥がして、完全に素の態度を出してしまった。
恐る恐る隣を見ると。
由利さんは僕の怒ったような反応を見て、驚くでも傷つくでもなく、なぜか少し嬉しそうにクスクス笑っていた。
(……なんか、この人……調子狂うわ)
完全にペースを握られ、僕は大きなため息をつきながら、手元のぬるくなったお茶を口に含んだ。
ベンチに戻ると、由利さんが控えめに尋ねてきた。
「同じクラスの、幼馴染の兄ちゃん。あ、幼馴染っていうのは、バンドで初めて音合わせた日に、プレハブ覗きに来てたやつで……って、覚えてないか」
苦笑いしながら言うと、由利さんは口を開いた。
「……あの、髪ふわふわで可愛い子?」
「あー、そう。覚えてたんだ」
(……って。あ)
彼女がめぐみを覚えていたことに驚きながら、『可愛い子?』という問いに『そう』と無意識で肯定している自分に気づき、言葉を詰まらせた。
そんな僕の顔をじっと見つめていた彼女が、静かなトーンで言う。
「……あの子が好きなの?」
「……え!? なぜ!?」
図星を突かれ、思わず大きな声を出して激しく動揺してしまった。
由利さんにめぐみの話をしたのは、今が初めてのはずなのに。
(俺って……そこまでわかりやすいのか!?)
「……朝井くんの歌聴いて、絶対、すごく好きな人がいるんだろうなって思ってて」
由利さんは、真っ直ぐ前を見つめたまま続けた。
「あの子の話をしてる時、すごく嬉しそうな顔してたから。試しに、聞いてみた」
(……試し、かよ……)
見事にカマかけに引っかかり、顔に出して動揺してしまった自分に呆れて、思わず頭を抱えた。
僕のその態度を「肯定」と受け取った彼女は、「そうなんだね」と小さく呟いた。
疲労や寝不足で頭が回らず、今さら気の利いた誤魔化しも思いつかない。
それに、もう誤魔化さなくてもいいかと思い直し、僕は観念して「……うん」と頷いた。
すると、由利さんがベンチからスッと立ち上がり、僕の前に立って言った。
「私は……朝井くんが好き」
「……へ?」
突然の言葉に、僕は間抜けな声を聞き返してしまった。
「好きって?」
「そのままの意味」
由利さんは、表情を変えずにハッキリと言い切った。
「……俺、好きな人教えたばっかりじゃなかった?」
困惑して尋ねると、彼女は「うん」と頷く。
「でも、彼女ではないんでしょ? だったら、いいじゃない」
「…………」
完全に呆気にとられた。
大人しそうな見た目に反して、ものすごく真っ直ぐで、強引だ。
だが、曖昧な態度をとって、めぐみに変な誤解をされるわけにはいかない。
僕は腹を括り、真剣な顔を作って言った。
「……いや、よくないわ。ごめん」
明確な拒絶。
それでも由利さんは、引かなかった。
「でも、私の気持ちだもん。自由でしょ?」
(え、こいつ……強い……)
圧倒されて言葉を失う。
だが、ふと彼女が体の前で握っている両手を見ると――その白い指先が、微かに、けれどハッキリと震えていた。
(……勇気、出してくれたのか)
その震えに気づいた瞬間、彼女の不器用な強がりが理解できて、僕はそれ以上突き放す言葉を紡げなくなった。
由利さんは「ふう」と小さく息を吐くと、再び僕の隣に座り直した。
「……告白されるの、慣れてそうだね。モテそうだもん」
少しだけトーンを落として、ぽつりと言う。
「……いや、そんなことないけど」
僕は否定したが、由利さんはそれを謙遜と受け取ったのか、少し意地悪な響きを含ませて言った。
「モテるのに、自分の好きな子とはまだ付き合えてないんだね」
痛いところを的確に抉られ、僕は思わず反射的に叫んでいた。
「……うるさいわっ!」
(……あ)
言ってから、すぐにやばいと焦った。
めぐみの話題だったからとはいえ、他の女子に対して『無難スマイル』を剥がして、完全に素の態度を出してしまった。
恐る恐る隣を見ると。
由利さんは僕の怒ったような反応を見て、驚くでも傷つくでもなく、なぜか少し嬉しそうにクスクス笑っていた。
(……なんか、この人……調子狂うわ)
完全にペースを握られ、僕は大きなため息をつきながら、手元のぬるくなったお茶を口に含んだ。



