幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 ◇

 これ以上お邪魔をしているわけにもいかず、僕は諦めて自分の家へと帰った。

「おかえりー。どう? 初めての高等部の文化祭。楽しかった?」
 リビングに入ると、母さんが上機嫌で話しかけてきた。

「……ん」
 僕はまだ完全に上の空のまま、適当に生返事をする。

「めぐちゃんのお母さんに会った? 午前中に行くってメッセージもらったけど」
「…………」
 何も言葉が出てこず、無言で突っ立っていると、母さんは「もー。うちの子たちはほんと話さないんだからー」とため息をつき、それ以上話しかけてこなくなった。

 自室にリュックを放り投げ、すぐに風呂場へ直行した。
 シャワーから熱いお湯を出し、頭から勢いよく浴びる。
 水音の中で、僕は今日起きたことを、ひとつひとつ冷静に整理していった。

 まず……ライブが成功してよかった。
 それは間違いない。

 そして、めぐみは僕のライブを見た後、何のコメントも残さずすぐに帰ってしまった。
 でも、家に帰ってベッドに寝転がりながらあの曲を聴いていた。
 単に、曲自体を気に入っただけの可能性はある。
 有名だし、メロディも歌詞もいい。

 ただ、気になるのは……それが僕にバレた時の、めぐみの反応だ。

 もし単に曲が好きなだけなら、「これ、いい曲だよね」と笑って言えば済む話だ。
 それなのに、あいつは顔を真っ赤にして、僕から逃げるようにトイレに立て籠った。

(あれは……)

 シャワーのお湯が、顔を伝って床へと流れ落ちていく。

 あれは……僕への好意を含めてあの曲を聴いていたから。
 それが、他でもない僕本人にバレてしまったから、限界を超えてパニックになったのではないか……?

 ……つまり、めぐみも、僕を好きになったのではないか?

 その結論に行き着いた瞬間――。

「………………っ!!」
 僕は両手で顔を覆い、風呂場の中で思い切り叫び出したくなる衝動に駆られた。

 また母さんに怒鳴られないよう、歓喜の叫びをなんとかぐっと腹の底に我慢する。
 けれど、心臓の奥底から込み上げてくる熱と、抑えきれない笑みはどうしようもなかった。

 歴史が……動いた。
 十年近くに及ぶ僕の長く苦しい片思いが、今、確実な両思いへと進もうとしているんだ。

 風呂から上がってベッドに潜り込んでも、異常なまでの心拍数は一向に治る気配がなく、僕はその日、全然寝つくことができなかった。