幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 明かりがついた部屋の中。

 めぐみは……起きていた。

 部屋の入り口に背を向ける形で、ベッドの上にうつ伏せに寝そべっている。
 制服のままで、鞄はベッドの端に脱ぎ捨てられていた。

(…………っ)

 彼女が短めのスカート姿であることに気がつき、僕は慌てて足元に目をやらないよう、細心の注意を払って視線を上に向けた。

 めぐみの頭には、大きめのヘッドホンが装着されている。
 どうやら何かを大音量で聴いているらしく、僕が部屋に入ってきたことにも、声をかけたことにもまったく気づいていないようだった。

 僕はそっとベッドに近づき、彼女の頭からそのヘッドホンをヒョイッと外した。

「っ!!」
 急に音が消えたことに驚き、めぐみがバッと背後を振り向いた。

「……ええっ!? なっちゃん!? え!?」

 目を限界まで丸くして、信じられないものを見るように僕を見上げる。
「えっ、なんで!? なんでうちに……!」
「お前がさっさと帰るから……」

 僕が言いかけたその時、めぐみはハッとして、僕の手にあるヘッドホンへと慌てて手を伸ばしてきた。

「……かっ……返してっ!!」
「…………?」
 何をそんなに必死に慌ててるんだ?

 不思議に思い、僕はヘッドホンをひょいと持ち上げて彼女の手から遠ざけた。
 シャカシャカと、ヘッドホンのイヤーパッドから漏れ聞こえてくる微かな音楽に耳を澄ませる。

(……え)

 それは……ついさっき、僕が体育館のステージで歌い上げたばかりの、あのラブソングの原曲だった。

「……へー。これ聴いてたんだ」

 僕がヘッドホンを見下ろしながらポツリと言うと。

 自分が何を聴いていたのかバレたことに気づいためぐみは――その顔を一瞬にして、耳の先まで真っ赤に染め上げた。

「…………っ!!」

(……え?)
 僕が、その異常なまでの動揺と照れ顔の意味にハッと勘づいた、次の瞬間。

 めぐみは弾かれたようにベッドから離れ、僕の隣をスルッとすり抜けて猛ダッシュで部屋を飛び出した。

「……!? おいっ!?」

 慌てて追いかけて廊下に出ると、彼女はある扉の中に逃げ込み、内側からガチャッ! と激しい音を立てて鍵を閉め、完全に閉じこもってしまった。

 ――そこはまさかの、トイレだ。

「!? おい、めぐ!?」
 ノブをガチャガチャと回すが、当然開かない。
 中からは、微かな衣擦れの音すら聞こえてこない。

「……どした?」
 騒ぎを聞きつけたのか、リビングから光くんが不思議そうな顔をして出てきた。

 僕は扉を指差し、呆然としたまま答えた。
「……めぐが、トイレに立て籠った」
「は?」

 光くんは訳がわからないという顔をして、頭を掻きながら再びリビングへと戻っていった。

「……めぐ。出てこい」
 外から何度か話しかけ、そのまま扉の前で二十分くらい待っていたが。
 結局そのまま、めぐみがトイレから出てくることはなかった。