幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 いよいよ文化祭当日の朝。

 集合時間ぴったりくらいに自分の教室の引き戸を開けると、中はすでにクラスの連中で溢れかえっていて、僕はむしろ遅いくらいだった。

 窓枠に飾られた提灯や、ダンボールで作られた屋台のセット。
 一晩でさらに完成した「非日常」の空気が、これから始まる文化祭への高揚感を伴って教室中に充満している。

 ふと視線を巡らせると、はっぴとハチマキを身につけためぐみが、屋台のレジカウンターの裏側で金森と一緒にお金を整えているのを見つけた。

(……ん?)

 その水色と黒の背中から視線を上に移し、僕は思わず二度見した。

 くるんとした焦茶色の髪が、両サイドからすっきりとまとめられている。
 僕が以前「一番似合っていると思う」と伝えた――あの大好きなハーフアップだったのだ。

 ドクンッ! と。
 心臓がいきなりうるさい音を立てた。

(……ハチマキを巻きやすいように、ただ邪魔だったから結んだだけかもしれない。でも、まさか……俺が似合うって言ったから?)

 そんな都合のいい自惚れが頭をもたげ、途端に冷静でいられなくなる。

「なあ朝井。あの提灯、傾いてないよな?」
 背後から、葉山が声をかけてきた。
「……あー、うん」
 めぐみの背中を見つめたまま、上の空で短く返す。

 すると葉山は、何かを思い出したように「あ! そういえば……」と含み笑いを見せた。
「なんか、お前が他のクラスの女子と付き合ってるって噂聞いたぞ?」

「……は」
 一気に現実に引き戻される。

 おそらく、昨日もプレハブで嶋から聞かされた、あの由利さんとの噂のことだろう。

「いや、それガセだから」
 深い溜め息をつきながら否定した、その瞬間。

(……あっ、やばい)
 血の気が引いた。

 めぐみにも、あれは誤解だとまだハッキリ言えていないことに気がついた。

 昨日の夕方、空き教室で二人きりで話す絶好のタイミングがあったというのに。
 僕は目の前にいるめぐみのことで頭がいっぱいになり、一番肝心な噂の否定をすっかり忘れていたのだ。

(どこかのタイミングで、絶対しっかり言っておこう……)
 僕が内心で冷や汗をかいていると、葉山がポンッとと僕の肩に手を乗せた。

「だよな!? お前は『めぐ』一筋だもんな!」
「…………」

 普段はめぐみのことを「井原」と呼んでいるくせに、わざと僕の呼び方を真似して面白がってからかってくる。

「いてっ」

 僕は悪びれない葉山の脇腹を軽く小突き、開会式が行われる体育館へと向かった。