教室では、カシャ、カシャと軽快なシャッター音を響かせながら、今日も織くんがクラスのみんなの準備風景を写真に収めてくれている。
私も満面の笑みでポーズをとると、織くんは嬉しそうに目を細めた。
――昨日、「『めぐ』って呼んでいい?」と聞かれた時、私は思わず「ダメ」と断ってしまった。
気まずくなったりしたらどうしようと少し心配していたけれど、織くんは「わかった。じゃあ『めぐちゃん』のままね」と、サラッと笑って受け流してくれたのだ。
今日もレンズ越しに向けられるのは、いつもと変わらない穏やかな笑顔で、私はホッと一安心していた。
私のヨーヨーすくいの店番シフトは、葵と一緒に二番目の時間帯だ。
「始まったら、まずは近場の一年生の教室から回ろっか」
「うん、そうしよ!」
予定を話していると、葵が「ちょっとトイレいってくるねー」と教室を出て行った。
「はーい」と返事をしたあと、私はふと思い出した。
(あれ。レジにメモ帳置いてたっけ)
確認するため、ダンボールで作った大きな屋台のカウンターの裏側へと回り込んだ。
「……わっ!」
思わず声が出た。
屋台の死角になる裏側の床に、なっちゃんが一人でしゃがみ込んでいたのだ。
「……何してるの?」
驚いて尋ねると、彼は顔を上げずに手元を動かしながら答えた。
「これ、軽くて倒れそうだから。安定させるために、下に重し乗せようとしてんの」
見ると、見えない内側の部分に、水の入った重いペットボトルをいくつかガムテープで固定しようと試みているところだった。
「あ、ほんとだ。ありがと……」
私は、しゃがんでいる彼を少し見下ろす形になる。
なっちゃんが私を見上げて、今日、初めて目が合った。
角度のせいか、ハチマキ姿のせいか、彼の視線がいつもより大人びて見えて、急に居心地が悪くなる。
見下ろしているのがなんだか無性に恥ずかしくなって、私もそっと彼の隣にしゃがみ込んだ。
「…………」
けれど、何を話したらいいかわからなくて黙っていた。
「……へー」
なっちゃんが、ふいに短く呟いた。
「……髪型、これにしたんだ」
言うが早いか、なっちゃんの手がスッと伸びてきて、私の肩にかかっていたハーフアップの髪先を、指先でそっと摘んだ。
「……っ」
驚いて、声が喉の奥で詰まる。
彼の長い指先が、髪越しに首筋の近くに触れたような気がして、身体が跳ねそうになる。
(……なんかなっちゃん……最近、距離近くない? ボディタッチ多くない?)
心の中で、警報がガンガンと鳴り響く。
小さい頃は特に何も気にしていなかったけれど、中学生以降は、こんなふうに不用意に触れてくることなんて当然まったくなかった。
予想外の接触に、完全に反応に困ってしまう。
それに、『髪型これにしたんだ』という口ぶりは、まるで『俺が一番似合うって言ったから、これにしたんだろ?』と見透かされているようで、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた。
「あれ、めぐは?」
その時、教室の入り口から、トイレから戻ってきた葵の声が聞こえた。
「……あ、あっ! ごめん葵、今行く!」
私は慌ててバッと立ち上がり、なっちゃんをその場に残して、逃げるように葵のもとへと駆け寄った。
「……じゃあ、行こっか!」
少し息を切らして言うと、葵はじっと私の顔をのぞき込んできた。
「……なんかめぐ、顔赤くない?」
「えっ!? そっ、そう!?」
自分でも驚くほど、見事に裏返った声が教室に響き渡ったのだった。
私も満面の笑みでポーズをとると、織くんは嬉しそうに目を細めた。
――昨日、「『めぐ』って呼んでいい?」と聞かれた時、私は思わず「ダメ」と断ってしまった。
気まずくなったりしたらどうしようと少し心配していたけれど、織くんは「わかった。じゃあ『めぐちゃん』のままね」と、サラッと笑って受け流してくれたのだ。
今日もレンズ越しに向けられるのは、いつもと変わらない穏やかな笑顔で、私はホッと一安心していた。
私のヨーヨーすくいの店番シフトは、葵と一緒に二番目の時間帯だ。
「始まったら、まずは近場の一年生の教室から回ろっか」
「うん、そうしよ!」
予定を話していると、葵が「ちょっとトイレいってくるねー」と教室を出て行った。
「はーい」と返事をしたあと、私はふと思い出した。
(あれ。レジにメモ帳置いてたっけ)
確認するため、ダンボールで作った大きな屋台のカウンターの裏側へと回り込んだ。
「……わっ!」
思わず声が出た。
屋台の死角になる裏側の床に、なっちゃんが一人でしゃがみ込んでいたのだ。
「……何してるの?」
驚いて尋ねると、彼は顔を上げずに手元を動かしながら答えた。
「これ、軽くて倒れそうだから。安定させるために、下に重し乗せようとしてんの」
見ると、見えない内側の部分に、水の入った重いペットボトルをいくつかガムテープで固定しようと試みているところだった。
「あ、ほんとだ。ありがと……」
私は、しゃがんでいる彼を少し見下ろす形になる。
なっちゃんが私を見上げて、今日、初めて目が合った。
角度のせいか、ハチマキ姿のせいか、彼の視線がいつもより大人びて見えて、急に居心地が悪くなる。
見下ろしているのがなんだか無性に恥ずかしくなって、私もそっと彼の隣にしゃがみ込んだ。
「…………」
けれど、何を話したらいいかわからなくて黙っていた。
「……へー」
なっちゃんが、ふいに短く呟いた。
「……髪型、これにしたんだ」
言うが早いか、なっちゃんの手がスッと伸びてきて、私の肩にかかっていたハーフアップの髪先を、指先でそっと摘んだ。
「……っ」
驚いて、声が喉の奥で詰まる。
彼の長い指先が、髪越しに首筋の近くに触れたような気がして、身体が跳ねそうになる。
(……なんかなっちゃん……最近、距離近くない? ボディタッチ多くない?)
心の中で、警報がガンガンと鳴り響く。
小さい頃は特に何も気にしていなかったけれど、中学生以降は、こんなふうに不用意に触れてくることなんて当然まったくなかった。
予想外の接触に、完全に反応に困ってしまう。
それに、『髪型これにしたんだ』という口ぶりは、まるで『俺が一番似合うって言ったから、これにしたんだろ?』と見透かされているようで、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた。
「あれ、めぐは?」
その時、教室の入り口から、トイレから戻ってきた葵の声が聞こえた。
「……あ、あっ! ごめん葵、今行く!」
私は慌ててバッと立ち上がり、なっちゃんをその場に残して、逃げるように葵のもとへと駆け寄った。
「……じゃあ、行こっか!」
少し息を切らして言うと、葵はじっと私の顔をのぞき込んできた。
「……なんかめぐ、顔赤くない?」
「えっ!? そっ、そう!?」
自分でも驚くほど、見事に裏返った声が教室に響き渡ったのだった。


