幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 早めに学校に着いたはずなのに、初夏の強い日差しを浴びる校舎は、すでにたくさんの生徒たちの熱気でワイワイと賑わっていた。

 自分の教室の引き戸を開けると、一晩でさらに完成度を増した「夏祭り」の空間が広がっていて、一気に胸が高鳴る。

「おはよー!」
「あ、めぐ! おはよー!」

 クラスの女の子たちが、あちこちから振り返って返事をしてくれた。
 みんな、すでにクラスのお揃いのはっぴを羽織り、お互いの髪の毛を編み込んだりして可愛くセットし合っている。
 私も自分のロッカーから、綺麗に畳まれたはっぴとハチマキを取り出し、更衣室へと向かった。

 ◇

 着替え終わり、更衣室の大きな鏡を見る。
「おおー! 衣装、可愛い!」

 水色と黒を基調とした生地の背中に、赤く大きく「祭」と抜かれた定番のはっぴだ。
 非日常の衣装を身に纏うと、それだけで魔法にかかったようにテンションが上がる。

 けれど、改めて鏡の中で自分の髪型を見た瞬間――急に、ハーフアップにしてきたことが今さら恥ずかしくなってきた。

『俺は今日の髪型が、めぐに一番似合ってると思う』

 ゴールデンウィークに家で勉強を教えてもらった時の、なっちゃんの少し不器用な褒め言葉が脳裏をよぎる。

(……別に、深い意味はないし。ただ気合を入れたかっただけ!)

 自分にそう言い聞かせるようにブンブンと首を振り、私は早足で教室へと戻った。

 ◇

 教室を見渡したが、なっちゃんの姿はまだないようだ。

 私は葵と一緒に、屋台に見立てたレジカウンターの中で、お釣りの小銭の準備を始めた。
 チャリン、チャリンと硬貨を数える音が響く中、背後の廊下の方から声が聞こえた。

「おお、おはよー」
 葉山くんの声だ。

 それに続いて、聞き慣れた少し低い声が重なる。
「はよ」

(なっちゃん、来た)

 声を聞いた途端、体がピタリと硬直した。

 昨日の夕方、空き教室で彼に手を持たれた時に近くで見た顔。
 まっすぐに見つめられた黒い瞳から、どうしても目を逸らせなかったこと。

 そして何より、今の自分のこの「髪型」。

 いろいろなことが一気に頭を巡り、私はなんとなく後ろを振り向くことができなかった。

「俺も着替えてくるわー」

 なっちゃんが教室を出ていく足音が聞こえ、私はようやく「ふうっ」と小さく息を吐き出した。

 ふと横の気配に気づくと、葵が硬貨を数える手を止め、じーっと私の横顔を見つめていた。
「……ん? どうしたの?」
 不思議に思い尋ねると、葵は「いや、別にー?」と、なぜか楽しそうに口角を上げて笑っていた。

 ◇

 やがて全校生徒が体育館に集められ、開会式が行われた。
 むせ返るような熱気の中、色とりどりのクラスTシャツや衣装がひしめき合っている。
 三年生の先輩たちはクラス劇をやるらしく、ドレスや甲冑など、ものすごく豪華な衣装を着ていて目を引いた。

「あっ、先輩!」
 サックスパートでお世話になっている先輩を見つけ、手を振る。
 女性剣士の格好をした先輩はめちゃくちゃカッコよくて、葵と一緒に大盛り上がりした。

 開会式はクラスごとに縦に二列になって、適当な順番で地べたに座っている。
 ずっと前の方に、なっちゃんの背中が見えた。
 まだ正面からは確認できていないけれど、私と同じ水色のはっぴを着て、頭には白いねじりハチマキを巻いている。
 そのハチマキが、すっきりと短く切られた黒髪にとてもよく似合っていて、後ろ姿だけでもなんだか様になっていた。

 ステージの上で、三年生の文化祭委員の先輩がマイクを握る。

「それじゃあみんな、二日間思いっきり楽しむぞー!」
「おおおーーっ!!」

 体育館を揺るがすような大歓声とともに、開会式は幕を閉じた。
 あと三十分もすれば、外部のお客さんたちが続々と校門をくぐってくる。
 各クラスは速やかに教室へ戻り、最終の準備と配置についた。