幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 朝起きるのは昔から苦手で、お兄ちゃんからよく「お前の目覚まし長すぎるんだけど」とクレームを受けている。
 けれど今日だけは、セットしていたアラームが鳴る十分も前に、パチッと自然に目が覚めた。

 ベッドから抜け出し、少しひんやりとしたフローリングを歩いてリビングへと向かう。
 廊下に出ると、キッチンからトーストの焼ける香ばしい匂いと、フライパンで油が跳ねるパチパチとした音が聞こえてきた。

(あ、お母さんまだいる)

 その気配にホッとする。

 両親が営む動物病院の早番の日は、私が起きた時にはすでにお母さんの姿がないことも多いのだ。

「……おはよー」
 パジャマのままリビングに入り、声をかける。
 エプロン姿のお母さんが振り返り、優しく微笑んでくれた。

「おはよ。今日は早いね」
「うん。文化祭、楽しみすぎて!」

 ダイニングテーブルには、半熟の目玉焼きとこんがり焼けたトーストが並べられた。
 お母さんも私の向かいに座り、コーヒーを一口飲んでから同じものを食べ始める。

「今日、お母さんは午前中に行って、お父さんは午後に行くからね」
「ほんと? やったあ!」
 二人とも、忙しい仕事の合間を縫って私の高校で初めての文化祭に来てくれるのだ。
 嬉しくて、トーストをかじる口元が自然と緩む。
「光もね、明日友達連れて冷やかしに行こうかなって言ってたわよ」
 お母さんがおかしそうに笑う。
「えー、お兄ちゃんはどっちでもいいや」
 私も笑いながら、サクサクのトーストに思いきりかじりついた。

 ◇

 朝食を終え、洗面所に立ち、冷たい水で顔を洗って歯を磨く。

 今日は文化祭本番ということで、ほんの少しだけ色付きのリップを塗って薄くメイクをしてみた。
 白のブラウスに桜色のリボンを付け、紺のチェック柄のスカートを履く。

 身支度が済み、玄関の土間でローファーに足を滑らせた。
 その時、ふと壁に掛けられた姿見に映る自分と目が合う。

「…………」
 少し考えた後、私は手首につけていた黒いヘアゴムを外し、サイドの髪を掬い上げて後ろでまとめた。
 鏡の中で、少しだけ大人っぽく見えるハーフアップの自分が完成する。

(……よし)
「……いってきまーす!」

 奥に向かって声をかけると、「いってらっしゃい。楽しんでね〜」というお母さんの明るい声が見送ってくれた。