幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 文化祭のすぐ後には期末テストが控えている。
 少しでも勉強しておこうと机に向かったものの、どうにも身に入らなかった。

 開いたままのノートとシャープペンシルを放り出し、僕はそっとスマホを手に取った。
 頬杖をつきながら、さっき通学路で撮ったばかりのめぐみの写真を画面に映し出す。

 夕焼けの強いオレンジ色を背にして、彼女は少しだけ照れたような、はにかんだような笑みを浮かべていた。

 スワイプして、カメラロールを少し遡る。

 今度は、中学の卒業式の日、誰もいない教室で撮った二人のツーショット写真を開いた。
 僕が無愛想な真顔で写っている横で、めぐみは一切の屈託なく、まるで小学生の子供のように無邪気な満面の笑顔を向けている。

 二つの写真を見比べ、「はあ……」と息を吐き出した。

 普通の人から見たら、「これで?」って思われるレベルかもしれないけれど。
 僕の長く、ひたすらに一方通行だった片思いの歴史の中で言えば、これは間違いなく、今が最も「いい感じ」の時期なのではないか……?

 だって、めぐみはいつだって、僕に対しては「ただの幼馴染」に対する無防備さや無邪気さしか持ち合わせていなかった。
 最近のように、僕の言葉に少し照れたり、はにかんだりして見せるなんていうことは、僕からすれば一気に百歩くらい前進したような、とんでもない進歩に感じられた。

 ただ、ここで難しいのが今後の立ち回りだ。
 このまま自然に接していれば、もっと前進していけるのだろうか。
 それとも、今が最高値のチャンスで、ここで踏み込まないと、後になって『あの時、このタイミングを逃さなきゃよかった』と激しく後悔することになるのか。

 その見極めが、恋愛経験値ゼロの僕には絶望的に難しかった。

(……いや、待てよ)
 ベッドに仰向けに寝転がり、天井の壁紙を睨みつけながら思考を巡らせる。

 焦るのは禁物だ。
 まずは、来週に迫った文化祭のステージ。
 それをきっちり成功させて、めぐみからの好感度を確実に上げることに最善を尽くそう。
 考え抜いた結果、僕はその極めてまっとうな結論に至った。

 そうと決まれば、少しでも歌の完成度を上げなければ。
 僕は制服を脱ぎ捨てて風呂場へと向かった。

 湿気のこもった浴室で、熱いシャワーを頭から浴びながら、タイルの壁に向かって発声練習をしていた、その時。
「うるさい! 近所迷惑でしょうが!」
 脱衣所のドアの向こうから、母さんのお叱りの声が飛んできた。