今朝までアスファルトを濡らしていた雨はすっかり上がり、窓の外には、いよいよ真夏が顔を出し始めたような眩しい日差しが広がっている。
一応冷房が効いている教室の中はひんやりとして涼しいけれど、文化祭まであと十日を切ったこの空間は、どこか熱を帯びた喧騒に包まれていた。
私は教室の隅で、ヨーヨーすくいの釣り針の小さい穴に紙紐を通すという、地味で集中力のいる作業を、葵、織くんと並んで黙々と進めている。
「……っ! やったあ!」
うまくいかなくて時間がかかった分、やっと穴を通った達成感で大きく深呼吸する。
「あっ、私いつの間にか息止めてた」と自分で笑うと、隣の葵も小さく吹き出した。
目標は八百本だけど、まだ半分もできていない。
迷った末、クラスの予算節約のために既製品を買わずに自分たちで通すことにしたのだが、想像以上に肩が凝る大変な作業だ。
「……俺もできた!」
隣で織くんが、嬉しそうに完成したこよりを見せてきた。
ふと顔を上げると、教室の奥のほうで男子たちが「テストテスト!」と言って風船に水を入れ、入れすぎてパンッと破裂させてはゲラゲラ笑い合っている。
そのさらに奥では、なっちゃんが一人真面目に、看板に絵の具で色を塗っているのが見えた。
ちょっと手が疲れたので、休憩がてら男子たちを眺めながら、隣の織くんに何気なく尋ねてみた。
「織くんって、男子の中では誰と仲いいの?」
すると彼は、少し困ったように苦笑いして、手元の紙紐から目を離した。
「いやー。俺、実は同性の友達ほとんどいないんだよね。中学の時も男子の中で浮いててさ」
「えっ、そうなの?」
「俺、ちょっと変わってるじゃん? 今朝もさ、校門の近くの紫陽花の葉っぱに綺麗に雨粒が付いてて。思わず何枚も写真撮ってたら、近くを通った男の先輩たちにめちゃくちゃ怪訝な目で見られて、引かれたんだよね」
織くんは自嘲気味に笑う。
「なんかそういう感じで、言動がズレてるって見られること多くて。自分でもズレてる自覚はあるんだけどさ」
少し寂しそうに話す織くんを見て、不思議に思った。
「えっ? 綺麗だなって思ったものを撮るの、いいじゃん」
私が真っ直ぐに言うと、織くんはパチクリと瞬きをした。
「綺麗だなとか、好きだなって思うものが多い方が、絶対に人生得だし! 」
私がそう言い切ると、織くんの顔からふっと緊張が抜け、心底安堵したような表情が広がった。
「……そうかな」
「そうだよ!」
私はふとひらめいて、彼にピースサインを向けた。
「織くん、人物写真は撮らないの? 私と葵、撮って!」
「えっ、私も?」と葵が少し照れくさそうに顔を上げる。
織くんは「いいよ」と笑いながら、ポケットから自分のスマホを取り出した。
カメラを起動し、私たちの前に構えて少しだけ角度を傾ける。
パシャッ。
軽快なシャッター音が鳴った。
「見せて見せて!」
私は身を乗り出して、織くんのスマホの画面を覗き込んだ。
「……なにこれ! めちゃくちゃいい!」
思わず大きな声が出た。
画面の中には、照れくさそうに微笑む葵と、満面の笑みでピースをする私の姿が映っていた。
画角いっぱいに、高校生活の貴重な思い出の一ページを切り取ったようだ。
光の入り方も構図もすごく素敵に撮れている。
「なんで同じスマホなのに、こんなに良く撮れるの!? コツ教えて!」
私が身を乗り出してお願いすると、織くんは「ここはね……」と、スマホの画面を指差しながら、優しく撮影のポイントを教えてくれたのだった。
一応冷房が効いている教室の中はひんやりとして涼しいけれど、文化祭まであと十日を切ったこの空間は、どこか熱を帯びた喧騒に包まれていた。
私は教室の隅で、ヨーヨーすくいの釣り針の小さい穴に紙紐を通すという、地味で集中力のいる作業を、葵、織くんと並んで黙々と進めている。
「……っ! やったあ!」
うまくいかなくて時間がかかった分、やっと穴を通った達成感で大きく深呼吸する。
「あっ、私いつの間にか息止めてた」と自分で笑うと、隣の葵も小さく吹き出した。
目標は八百本だけど、まだ半分もできていない。
迷った末、クラスの予算節約のために既製品を買わずに自分たちで通すことにしたのだが、想像以上に肩が凝る大変な作業だ。
「……俺もできた!」
隣で織くんが、嬉しそうに完成したこよりを見せてきた。
ふと顔を上げると、教室の奥のほうで男子たちが「テストテスト!」と言って風船に水を入れ、入れすぎてパンッと破裂させてはゲラゲラ笑い合っている。
そのさらに奥では、なっちゃんが一人真面目に、看板に絵の具で色を塗っているのが見えた。
ちょっと手が疲れたので、休憩がてら男子たちを眺めながら、隣の織くんに何気なく尋ねてみた。
「織くんって、男子の中では誰と仲いいの?」
すると彼は、少し困ったように苦笑いして、手元の紙紐から目を離した。
「いやー。俺、実は同性の友達ほとんどいないんだよね。中学の時も男子の中で浮いててさ」
「えっ、そうなの?」
「俺、ちょっと変わってるじゃん? 今朝もさ、校門の近くの紫陽花の葉っぱに綺麗に雨粒が付いてて。思わず何枚も写真撮ってたら、近くを通った男の先輩たちにめちゃくちゃ怪訝な目で見られて、引かれたんだよね」
織くんは自嘲気味に笑う。
「なんかそういう感じで、言動がズレてるって見られること多くて。自分でもズレてる自覚はあるんだけどさ」
少し寂しそうに話す織くんを見て、不思議に思った。
「えっ? 綺麗だなって思ったものを撮るの、いいじゃん」
私が真っ直ぐに言うと、織くんはパチクリと瞬きをした。
「綺麗だなとか、好きだなって思うものが多い方が、絶対に人生得だし! 」
私がそう言い切ると、織くんの顔からふっと緊張が抜け、心底安堵したような表情が広がった。
「……そうかな」
「そうだよ!」
私はふとひらめいて、彼にピースサインを向けた。
「織くん、人物写真は撮らないの? 私と葵、撮って!」
「えっ、私も?」と葵が少し照れくさそうに顔を上げる。
織くんは「いいよ」と笑いながら、ポケットから自分のスマホを取り出した。
カメラを起動し、私たちの前に構えて少しだけ角度を傾ける。
パシャッ。
軽快なシャッター音が鳴った。
「見せて見せて!」
私は身を乗り出して、織くんのスマホの画面を覗き込んだ。
「……なにこれ! めちゃくちゃいい!」
思わず大きな声が出た。
画面の中には、照れくさそうに微笑む葵と、満面の笑みでピースをする私の姿が映っていた。
画角いっぱいに、高校生活の貴重な思い出の一ページを切り取ったようだ。
光の入り方も構図もすごく素敵に撮れている。
「なんで同じスマホなのに、こんなに良く撮れるの!? コツ教えて!」
私が身を乗り出してお願いすると、織くんは「ここはね……」と、スマホの画面を指差しながら、優しく撮影のポイントを教えてくれたのだった。


