幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 初めてのバンド練習を終えて帰宅し、晩ごはんを食べ終えた僕は、自分の部屋のベッドに寝転んで適当にスマホをいじっていた。

 ――ピーンポーン。
 静かな家の中にインターホンが鳴る。

 それに応える母さんの声が弾み、廊下をパタパタと駆けていく足音が聞こえた。

(……めぐだな)

 その足取りの軽さとテンションの高さで、容易に察しがつく。

 僕はばっと跳ね起き、部屋の中を素早く見渡した。
 よし、今日は散らかっていない。問題なさそうだ。

 サッと机の前の椅子に座り、適当なノートを開いてシャープペンシルを握る。
 これで、なんともない顔をして『勉強中だった感』を装う準備は完璧だ。

 玄関の扉が開いた音がして、賑やかな声が響いてきた。
「これ、お母さんに渡すように頼まれてたやつですー!」
「助かる〜! めぐちゃんありがとう! さあさあ、上がって!」
 二人のやりとりが、廊下を通ってどんどん大きくなり、僕の部屋に近づいてくる。

 トントン、とノックされた直後、ガチャリとドアが開けられた。

「なっちゃん」

 ドアの隙間からひょっこりと顔をのぞかせた後、めぐみが部屋に入ってきた。

「……なに?」
 僕はあくまでノートに向かったまま、そっけなく答える。

 めぐみは僕の机に近づいてくると、少し興奮したような声を出した。
「ねー、今日びっくりした! まさかなっちゃんが歌うなんて!」

 放課後、プレハブの防音室で見つかった時の話だ。

「何歌うの?」
 興味津々で聞いてくる彼女に対し、僕はノートから一度だけ目を離してめぐみを見上げた。

「……秘密」
 短くそう告げて、再びノートに視線を戻す。
「えー! 気になる〜」
 めぐみが不満そうに唇を尖らせる。

「……本番になればわかるじゃん」

『観に来てほしい』とストレートに言うのが恥ずかしくて、僕はわざと遠回しな言い方で誘ってみた。
 すると、めぐみはパッと花が咲いたような笑顔になった。
「うんっ! めっちゃ楽しみにしてるね!」
 無邪気なその声に、ノートを見つめる僕の口元が自然と緩んでしまう。

 その時、めぐみが机の上の小物をいじろうと手を動かした拍子に、端に置いてあったプリントがハラリと床に落ちた。
「あっ、ごめん!」
 めぐみがしゃがみ込んでプリントを拾う。

 上から見下ろす形になり、彼女の頭の、小さなくるんとしたつむじが見えた。

(……可愛い)

 無意識にそんな感想が頭に浮かび、慌てて咳払いをして誤魔化す。