幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

「…………っ」
 曲が終わった瞬間、プレハブの中は一瞬の静寂に包まれた。

 その直後。

「……おおーっ!!」
 軽音部のバンドメンバーたちが、弾かれたように歓喜の声を上げた。

「なんか……初回なのにめっちゃ良くね!?」
「由利さんのピアノ、良すぎ!! 最高なんだけど!!」
「朝井もやっぱり上手いな!!」

 興奮冷めやらぬ男子たちが口々に叫ぶ中、僕もマイクスタンドを握りしめたまま、小さく息を吐き出した。

 初めて、誰かと一緒に音を合わせるという体験。
 自分の声が楽器の音に包み込まれ、予想以上のパワーを生み出していく感覚に、鳥肌が立つほど感動してしまっていた。

『合奏って、本当に楽しいんだよ』

 以前、吹奏楽部のめぐみが目を輝かせて教えてくれた意味が、今なら痛いほどよくわかる。

 テンションが上がりまくって騒いでいる男子たちを横目に、僕はマイクから離れ、ピアノの前に座る由利さんの方へと歩み寄った。

「すげーな。一日、二日でそんな完璧に仕上げられるもんなの?」
 僕が素直に感嘆の声を漏らすと、彼女は少しだけ目を丸くした後、伏し目がちに鍵盤を見つめた。
「うん、まあ……。朝井くんも、すごく上手いね」
 消え入りそうな声だったが、しっかりと僕の目を見て返してくれた。
「カラオケで歌ったことある曲だから、なんとかなったけど……。でも俺は素人だし、ちょっと発声のこととか調べて、本番までにちゃんと練習してみよっかな」
 僕が苦笑いしながら自分の課題を口にすると、由利さんはふっと顔を上げた。

「……真面目」
 そう言って、彼女の口元が微かに緩み――整った微笑みが浮かんだ。

(あ、笑うんだ)

 ずっと張り詰めていた彼女の緊張が、初めて解けたように見えた瞬間だった。