幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

「曲なんだけどさ、朝井の歌いやすいやつでいいぜ。俺ら、とにかく演奏できるだけで嬉しいからさ!」
 嶋が気前よく言ってくれたので、僕は彼らの演奏できるレパートリーの中から、自分が得意な二曲を選ばせてもらうことにした。

 どちらも、ボーカルが女性のバンドのラブソング。
 女子がそのままのキーで歌うには少しきついくらい高音の曲なのだが、僕が一オクターブ下げて歌うと、声質も音域もピタリとハマる。
 カラオケでもたびたび歌っていた曲だった。

 一曲目は、疾走感のあるアップテンポなナンバー。
 桜の情景と、好きな人の美しさを重ね、少し切なさも交えて歌う曲だ。
 文化祭の時期は六月だから季節は少しずれてしまうけれど……この曲の歌詞を見た時、ふと、高校の入学式でめぐみの首元に結ばれていた、あの桜色のリボンを思い出してピンときてしまった。

 そして二曲目は、ゆったりとしたバラード。
 恋する気持ちを歌う、女の子目線の曲だ。

「おお、いいじゃん! この二曲!」
 嶋が楽譜を見ながら頷き、ふと顎に手を当てた。
「ただ、この二つなら……絶対ピアノもいたほうが映えるよな。弾ける奴、探してみようかな」

 ◇

 その後、今後の練習スケジュールについてのすり合わせを行った。
 放課後は僕自身のバスケ部の練習があるため、軽音部の活動には参加できない。
「じゃあ、朝井が部活休みの日か、今日みたいに昼休みに集まって合わせようぜ。渡り廊下の近くに防音のプレハブがあるから、そこでさ」
「了解。迷惑かけるけど、よろしく」

――キーンコーン、カーンコーン。
 僕たちが大まかな予定を決め終えたところで、ちょうど午後の始まりを告げる予鈴が鳴り響いた。


 彼らと別れ、一人で渡り廊下を歩いて教室へと戻る。
 開け放たれた窓から、初夏の湿気を帯びた風が吹き込んできた。
 頭の中で、先ほど選んだ曲たちのメロディが自然と再生される。

(……観に来てくれるかな、めぐ)

 不安と、それを上回る高揚感。

 脳内に響くBGMに急かされるように、僕は少しだけ足早になって教室への道のりを歩いていた。