幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 ――キーンコーン、カーンコーン。
 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと同時に、教室は一気に昼休みの喧騒へと雪崩れ込んだ。

「朝井ー、購買行くー?」
 リュックから財布を取り出そうとしていた葉山が、遠くの席から声をかけてくる。

「わり、今日用あるわ」
 僕が立ち上がりながら短く答えると、葉山は「あ」と何かを思い出したようにニヤリと笑った。
「例のアレの日か。頑張れよー」
「おー」
 適当に手を上げて返し、僕はそそくさと教室を後にした。

 向かった先は、特別教室棟の奥にある軽音部の部室。
 ノックをして重い鉄扉を開けると、狭い室内にはすでに僕以外のメンツが揃っていた。
 小学校から一緒で、先日僕に土下座の勢いであることを頼み込んできた嶋と、おそらく高校からの外部入学で面識のない男子が二人。

「よー! 待ってたぞー!」
 嶋が、パッと顔を輝かせて出迎えてくれた。

 初対面の二人に軽く挨拶をしながら、部屋の隅にある年季の入った古いソファに腰を下ろした。
 目の前のテーブルには、丸まった楽譜やらギターのピックやらが無造作に散らばっている。

 嶋以外のメンバー二人からも、「ボーカルOKしてくれて、ほんとありがとな!」「マジで助かった!」と口々に声をかけられる。

「いやいや……でも、本当に俺でいいの?」
 念のため確認するように尋ねると、三人は力強く頷いた。


 事の始まりは、テスト返却日のあの休み時間。

 今年の文化祭でステージに立ちたいと考えていた彼らのバンドは、ボーカルだけがいまだに見つけられずに困っていたらしい。
 そこで嶋が、昔一緒にカラオケに行った僕のことを思い出し、白羽の矢を立てたのだ。

 自分で言うのもなんだが、僕は昔から歌は結構得意だった。
 中学の頃、部活の打ち上げなどで男子連中とカラオケに行くと、いつも「お前……なんでそんな上手いんだよ!?」と驚かれていたほどだ。

 とはいえ、カラオケの密室と、文化祭でたくさんの生徒が集まるステージとでは訳が違う。
 人前で歌った経験など当然ない僕は、最初は断るつもりだった。

 けれど……嶋があの教室で必死にお願いしてきた時。
 僕の真後ろの席にいためぐみの存在にハッとした。

(ステージで歌っている姿をめぐみが観てくれたら……少しは、俺への好感度が上がるだろうか)

 そんな、不純でどうしようもない期待が頭をよぎり、最後の一歩を後押しされてしまったのだった。