幼馴染への三度目の失恋を回避したい 〜激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。〜【完結】

 なっちゃんの弟が習い事から帰宅し、部屋の中が賑やかになったタイミングで、私はおいとますることにした。

「お邪魔しました〜!」

 玄関でパンプスに足を入れながら大きな声で挨拶すると、私の後を追うようになっちゃんも無言のままスニーカーを履き始めた。

「あれ、なっちゃんもどこか行くの?」
 尋ねると、彼は靴紐を結びながら短い声で「……コンビニ」とだけ答えた。

「じゃあ、めぐちゃんまた来てなあ!」
 リビングの奥からひょっこりと顔を出したなっちゃんパパが、満面の笑みで見送ってくれる。
「はいっ! ありがとうございました!」

 パタン、と重い鉄の扉を閉めて、二人で外の廊下に出た。

 初夏の少しぬるい風が、優しく頬を撫でていく。
 マンションの階段を上り、自分の家の階へと向かう。

 コンビニに行くなら下へ降りるはずなのに、なぜかなっちゃんはテストの範囲の話などをしながら、私の隣に並んで上の階までついてきた。

(? なっちゃん、コンビニ行くんだよね?)

 不思議に思いつつも、私の家の前まで来たところで、振り返って彼に向き直った。

「今日は数学教えてくれてありがとね! それじゃあ……」
 別れの挨拶をしてドアノブに手をかけようとした、その時だった。

「……あのさ」
 なっちゃんが、少し低い声で私を呼び止めた。
「ん?」
 振り返ると、彼は私と目を合わせず、そっぽを向いたまま気まずそうに口を開いた。

「……俺は今日の髪型が、めぐに一番似合ってると思う」

「……えっ?」
 予想外の言葉に、私は目を丸くした。

 まさか、なっちゃんから髪型についてコメントされるなんて。
 しかも、そんなストレートに褒められるなんて、思ってもみなかった。

「そ、そう!? あ、ありがとう……」
 私がしどろもどろになってお礼を言うと、なっちゃんはそのまま私の目を見ようともせず、「……じゃあな」と踵を返した。

 そして、逃げるように小走りで階段を駆け下りていく。

「あっ……なっちゃん、今日はほんとありがとねー!」

 広い背中に向かって声をかけると、彼は振り返ることなく、片手をヒラッと上げてそのまま下の階へと消えていった。