異世界に来て10年、伝えられないままの片想い

よく眠れたなぁと思いながら、ゆっくりと目を覚ます。

3日ぶりに感じる体温が、まだすぐそばにあって、それだけで胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

バルスの方が先に起きていることがほとんどだから、こうして寝顔を見られるのは珍しい。

やっぱり、かっこいいなぁ。

そんなことを思いながら、そっと見上げる。

時計を見ると、まだ起きる時間には少し早い。それに、バルスがいつも起きる時間にしては、だいぶ遅い気がした。

たぶん、この3日間ずっと忙しかったのだろう。

いつもなら朝練をしている時間だもん。

昨日も、疲れて帰ってくるだろうから、絶対に甘えないって決めていたのに――

姿を見た瞬間、あっさり崩れた。

……ほんと、意志が弱い。

小さく自己嫌悪しながらも、結局はまた彼の首元へと顔を埋める。

だって、大好きで、大好きで、仕方ないんだもん。

自分でも、もう末期だなって思う。

休みだったらよかったのになぁ、とぼんやり考える。

結局、腕の中に収まったまま、ただ甘えたい気持ちだけが浮かんでくる。

そのとき。

「ん……」

かすかな声とともに、彼が目を覚ます気配がした。

首元に張り付いている私を見下ろして、瞳を細める。

「おはよう」

ぎゅっと抱きしめられて、胸の奥がふわっとほどける。

「おはよう」

返した声は、少しだけ甘くなってしまった。

しまりのない顔になっている自覚はあるけれど、どうしようもない。

まだ時間に余裕があるのか、彼はゆっくりと髪を撫でてくれる。

「すまないな、仕事が忙しくて」

申し訳なさそうな声に、思わず首を横に振る。

「ううん、平気……だから、もう少し」

そう言って、ぎゅっとしがみつくと、

「あぁ」

と短く返されて、背中をぽんぽんと優しく叩かれる。

そのまま少しだけ間があってから、

「あまり煽ると、次の休みは手加減できなくなるぞ」

ぽつりと落ちた言葉に、一瞬だけ固まった。

煽ったつもりなんてないのに――と思いながらも、

「えっと、その……だ、大丈夫」

と、なぜかそんな返事をしてしまう。

自分でも意味が分からなくて、言ったあとで一気に恥ずかしくなる。

ぴたりと手が止まったのが分かった。

恐る恐る顔を上げると、

「真っ赤だな」

と、楽しそうに目を細めている。

「う……だって」

言い訳にならない言葉をこぼすと、

「もう、前言撤回は認めないからな」

そう言って、少しだけ意地の悪い笑みを向けられた。

こくこくと頷いてから、耐えきれずにまた首元へ顔を埋める。

「……意地悪」

小さく呟くと、

「そうだな」

と、あっさり返されてしまう。

それから時計を見上げて、彼はわずかに息を吐いた。

「時間か」

頭にぽん、と手が置かれる。

その合図で、名残惜しさを感じながらも、腕を離した。

バルスが起き上がるのを見ながら、私も軽く伸びをする。

自分の部屋で着替えてから、朝食の準備に取りかかった。

パンと干し肉、目玉焼き。それに、昨日の残りの野菜スープ。

「やはり、灯火祭が終わるまでは家には戻れそうにない」

「そっか……」

思っていたよりも長い。

それでも、

「1回ぐらいは食べにこれそう?」

と聞くと、

「あぁ、1回ぐらいはな」

と、少しだけ柔らかい声が返ってくる。

そのやり取りだけで、少しだけ安心する。

また一人で寝る日に戻るのかと思うと寂しいけれど――

昨日、思う存分甘えておいてよかった。

私が甘えることで頭の中をいっぱいにしている間に、彼は朝食をさっと食べ終えて、上着に手を通していた。

私は食事を中断して、見送りに向かう。

「じゃあ、行ってくる」

いつものように、頭にぽんと触れられる。

「うん。ちゃんと休んで、あまり無理しないでね」

言いながら、そっと腕を引いた。

彼が少しだけ身をかがめる。

まだ歯磨きしてないし……せめて、頬なら。

そう思って、そっと唇を寄せる。

離れようとした瞬間、腕を引かれて、軽く引き寄せられた。

「……また、あとでな」

その声が少し低くて、思わず顔が熱くなる。

「うん、あの、い、行ってらっしゃい……」

なんとかそう返すと、バルスは小さく笑って、もう一度だけ頭を撫でた。