あれから1か月。
私は、かなり深刻なバルス不足に陥っていた。
彼は思っていた以上に仕事が忙しくなってしまって、会えるのはせいぜい週に1度。
それだけでも嬉しいはずなのに、顔を合わせるたびに気になってしまう。
――疲れてる。
明らかにそう分かるからこそ、私は抱きつくのを我慢してしまっていて。
結局、あの日以来、きちんと抱きしめてもらえていない。
……そこで、ふと気づいてしまった。
そういえば、バルスのほうから抱きしめてくれたことって、ほとんどないんじゃないか、と。
胸の奥が、じわっと重くなる。
バルスって、あんまりそういうの、好きじゃないのかな。
それとも――私だから?
女性的な魅力なんて、正直あるとは思えないし。
私があまりにもベタベタと付きまとうから、仕方なく奥さんにしてくれるだけだったらどうしよう……。
そんな考えが浮かんでしまって、ため息がこぼれる。
帰ってきたバルスに、ついぽろりと不安をこぼしてしまった。
次の瞬間。
何も言わずに引き寄せられて、抱きしめられる。
額に、頬に、そして唇に――軽く触れるだけの口づけが落ちた。
「ミドリは、オレがどれだけ我慢しているか、本当に分かっていないな」
低く落ちた声に、思考が一瞬止まる。
そのまま頬をぐいっと引っ張られて、私は完全に動揺してしまう。
「え、あ……」
言葉にならない私を見下ろして、バルスはどこか楽しげに目を細めた。
「式が終わったら、覚悟しておいた方がいい」
意地の悪い笑み。
「な……あ……」
何をどう返せばいいのか分からなくて、ただ顔が熱くなるばかりで。
結局、私はそのまま彼の胸に顔を埋めてしまった。
「そ、あ、が、頑張ります……?」
――何を。
言った瞬間に自分で分かって、恥ずかしさでどうにかなりそうになる。
そんな私を、バルスは小さく息をつきながら見下ろしていた。
―――――――――――――――――――
どうしてそういう勘違いにたどり着くのか。
バルスは内心、かなり大きなため息をついた。
一刻も早く手に入れたいと思う気持ちを、結婚式まではと必死に押し込めているだけだというのに。
それなのに。
無防備に胸に顔を埋めて、安心しきった顔をする。
嬉しい。
けれど同時に、これ以上は困るとも思う。
……本当に、無自覚に煽る。
「そういえば、お前はそうだったな」
ぽつりと呟いて、苦笑する。
しばらくして、ミドリが顔を埋めたまま小さく声を出した。
「あの、あのね」
「なんだ?」
「その……早く、奥さんになりたいです」
――だから。
どうしてそういうことを言うのか。
わずかに恨めしさを含んだ視線を向けながら、バルスは短く答える。
「……そうか」
それ以上は、言葉を増やせなかった。
「そうすれば、ここにいる自分を認められる気がして……」
その一言に、息が止まる。
「ミドリ……それは――」
言いかけて、止まる。
彼女の中にあるものの重さを、ようやく理解してしまったからだ。
「違うんです」
ミドリが顔を上げて、慌てて言葉を続ける。
「時々思うんです。もし、帰れるって分かったら、どうするのかなって」
その声は少しだけ揺れていた。
「家族のこと、大好きで……すごく会いたくて。でも同じくらい、あなたのことも好きで……」
その言葉は、想像していたよりもずっと重かった。
二度と戻れない場所に、大切な人たちを残してきた。
その現実を、改めて突きつけられる。
そして。
そんな彼女を、自分の勝手な考えから一度突き放した。
胸の奥に、鈍い痛みが走る。
無言のまま、強く抱きしめる。
ミドリは安心したように、また胸に顔を埋めた。
「でも、結婚したら……ここにいてもいいんだって思えるから。私は、もうここにしか居場所を求めないって決められるから」
少しだけ笑って、続ける。
「それに、私が幸せなら、家族もきっと喜んでくれると思うんです」
その言葉に、静かに息を吐く。
「甘えたければ、好きなだけ甘えていい」
低く、ゆっくりと告げる。
「オレはそのためにいるのだろう?」
ほんの少し間を置いてから、言葉を重ねる。
「ミドリの家族の代わりにはなれないが、寂しい思いはさせないようにする」
ミドリが顔を上げる。
真っ赤なまま、それでも嬉しそうに笑って。
「ずっと寂しかった……すごく、寂しくて」
一瞬、泣きそうな顔になる。
「だから……もっと、いっぱい抱きしめてほしいです」
バルスはそのまま彼女を抱き上げ、ソファに腰を下ろした。
なだめるように、背中をゆっくり撫でる。
ミドリはしばらく黙ったまま、胸に顔を埋めていたが、やがて小さく呟く。
「私、わがままばかりで……呆れてない?」
その言葉に、バルスはふっと笑った。
「むしろ足りないくらいだ」
少しだけからかうように続ける。
「ミドリは、我慢しすぎる」
その言葉に、ミドリはクスクスと笑う。
「やっぱり、甘やかしすぎ。……私がこうなの、半分バルスのせいですからね」
そう言いながらも、表情はやわらかい。
バルスがもう一度強く抱きしめると、腕の中でミドリは本当に幸せそうに笑った。
私は、かなり深刻なバルス不足に陥っていた。
彼は思っていた以上に仕事が忙しくなってしまって、会えるのはせいぜい週に1度。
それだけでも嬉しいはずなのに、顔を合わせるたびに気になってしまう。
――疲れてる。
明らかにそう分かるからこそ、私は抱きつくのを我慢してしまっていて。
結局、あの日以来、きちんと抱きしめてもらえていない。
……そこで、ふと気づいてしまった。
そういえば、バルスのほうから抱きしめてくれたことって、ほとんどないんじゃないか、と。
胸の奥が、じわっと重くなる。
バルスって、あんまりそういうの、好きじゃないのかな。
それとも――私だから?
女性的な魅力なんて、正直あるとは思えないし。
私があまりにもベタベタと付きまとうから、仕方なく奥さんにしてくれるだけだったらどうしよう……。
そんな考えが浮かんでしまって、ため息がこぼれる。
帰ってきたバルスに、ついぽろりと不安をこぼしてしまった。
次の瞬間。
何も言わずに引き寄せられて、抱きしめられる。
額に、頬に、そして唇に――軽く触れるだけの口づけが落ちた。
「ミドリは、オレがどれだけ我慢しているか、本当に分かっていないな」
低く落ちた声に、思考が一瞬止まる。
そのまま頬をぐいっと引っ張られて、私は完全に動揺してしまう。
「え、あ……」
言葉にならない私を見下ろして、バルスはどこか楽しげに目を細めた。
「式が終わったら、覚悟しておいた方がいい」
意地の悪い笑み。
「な……あ……」
何をどう返せばいいのか分からなくて、ただ顔が熱くなるばかりで。
結局、私はそのまま彼の胸に顔を埋めてしまった。
「そ、あ、が、頑張ります……?」
――何を。
言った瞬間に自分で分かって、恥ずかしさでどうにかなりそうになる。
そんな私を、バルスは小さく息をつきながら見下ろしていた。
―――――――――――――――――――
どうしてそういう勘違いにたどり着くのか。
バルスは内心、かなり大きなため息をついた。
一刻も早く手に入れたいと思う気持ちを、結婚式まではと必死に押し込めているだけだというのに。
それなのに。
無防備に胸に顔を埋めて、安心しきった顔をする。
嬉しい。
けれど同時に、これ以上は困るとも思う。
……本当に、無自覚に煽る。
「そういえば、お前はそうだったな」
ぽつりと呟いて、苦笑する。
しばらくして、ミドリが顔を埋めたまま小さく声を出した。
「あの、あのね」
「なんだ?」
「その……早く、奥さんになりたいです」
――だから。
どうしてそういうことを言うのか。
わずかに恨めしさを含んだ視線を向けながら、バルスは短く答える。
「……そうか」
それ以上は、言葉を増やせなかった。
「そうすれば、ここにいる自分を認められる気がして……」
その一言に、息が止まる。
「ミドリ……それは――」
言いかけて、止まる。
彼女の中にあるものの重さを、ようやく理解してしまったからだ。
「違うんです」
ミドリが顔を上げて、慌てて言葉を続ける。
「時々思うんです。もし、帰れるって分かったら、どうするのかなって」
その声は少しだけ揺れていた。
「家族のこと、大好きで……すごく会いたくて。でも同じくらい、あなたのことも好きで……」
その言葉は、想像していたよりもずっと重かった。
二度と戻れない場所に、大切な人たちを残してきた。
その現実を、改めて突きつけられる。
そして。
そんな彼女を、自分の勝手な考えから一度突き放した。
胸の奥に、鈍い痛みが走る。
無言のまま、強く抱きしめる。
ミドリは安心したように、また胸に顔を埋めた。
「でも、結婚したら……ここにいてもいいんだって思えるから。私は、もうここにしか居場所を求めないって決められるから」
少しだけ笑って、続ける。
「それに、私が幸せなら、家族もきっと喜んでくれると思うんです」
その言葉に、静かに息を吐く。
「甘えたければ、好きなだけ甘えていい」
低く、ゆっくりと告げる。
「オレはそのためにいるのだろう?」
ほんの少し間を置いてから、言葉を重ねる。
「ミドリの家族の代わりにはなれないが、寂しい思いはさせないようにする」
ミドリが顔を上げる。
真っ赤なまま、それでも嬉しそうに笑って。
「ずっと寂しかった……すごく、寂しくて」
一瞬、泣きそうな顔になる。
「だから……もっと、いっぱい抱きしめてほしいです」
バルスはそのまま彼女を抱き上げ、ソファに腰を下ろした。
なだめるように、背中をゆっくり撫でる。
ミドリはしばらく黙ったまま、胸に顔を埋めていたが、やがて小さく呟く。
「私、わがままばかりで……呆れてない?」
その言葉に、バルスはふっと笑った。
「むしろ足りないくらいだ」
少しだけからかうように続ける。
「ミドリは、我慢しすぎる」
その言葉に、ミドリはクスクスと笑う。
「やっぱり、甘やかしすぎ。……私がこうなの、半分バルスのせいですからね」
そう言いながらも、表情はやわらかい。
バルスがもう一度強く抱きしめると、腕の中でミドリは本当に幸せそうに笑った。



