クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした




──三ヶ月後。

春の陽射しが、廊下を明るく照らしていた。

生徒会室で、私は「困りごと相談箱」の手紙を読んでいた。

隣で翼くんが、別の手紙を広げている。

「美月、これ」

翼くんが、一通を差し出した。

『友達と仲直りできました。ありがとうございました』

「良かったね」

翼くんと顔を見合わせて、小さく笑う。

「美月ちゃーん、お弁当食べよ!」

凛ちゃんが、お弁当箱を抱えて入ってきた。

「今日はね、お母さんがオムレツを作ってくれたんだ」

「わあ、美味しそう!」

当たり前のお昼が、こんなに嬉しいなんて、透明人間だったころの私には想像もできなかった。

──ガラガラ!

「みんな! 美術科の高校、合格したよ!」

生徒会室のドアが開いて、千咲先輩が笑顔で入ってきた。

「ちゃんと、ご両親と話せたんですね」

「うん。怖かったけど、自分の言葉で話せた。おばあちゃんの手紙、受験の日にお守りに持っていったんだ」

「良かった……!」

「七瀬さん、本当にありがとう。あなたがいなかったら、まだ一人で抱えてたままだったかもしれない」

千咲先輩が帰ったあと、翼くんが窓の外を見て言った。

「きれいだね」

校庭の桜の木に、ピンクのつぼみがぽつぽつと膨らんでいた。もうすぐ、花が開く。

「うん」

翼くんが、私の隣に座った。

大切な人が、すぐそばにいる。

怪盗ムーンは終わったけど、誰かを助けたいという気持ちは変わらない。今度は、みんなと一緒に。堂々と。

新しい私の物語が、これから始まる。

【完】