ヘルメットくん

■道路交通法 第63条の11 第1項
 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。

 放課後。中学校の自転車乗り場で、ツトムはその法律を思い出していた。
 すぐに思い出せるのは、何度も注意されてきたからだ。
 両親、先生、パトロールしている警官……みんな「決まってるから」とツトムにヘルメットを被らせようとしてくる。
「マジうるせーんだよ。努力義務だろ」
 ツトムは知っていた。
 努力義務の場合、着用しなくても捕まったりはしないのだ。
 ツトムは、ヘルメットを自転車のカゴに投げ入れる。
 そのまま、自転車を漕ぎだした。
 ――ヘルメットなんてうざいだけだ。
 シンプルなのはダサい。
 デザインが凝っているのも、逆にダサい。
 せっかくワックスを使って整えた髪型が、崩れるのはだるい。
 だから、被らないのが一番いい。
 今日は部活で遅くなったので、外はもう薄暗くなってきている。
 それでも、知り合いとすれ違う可能性はある。
 ヘルメットを被っているところなんて、見られたくない。
 いつものように言い訳を考えながら自転車を漕ぐ。
 ひと気の少ない道に差し掛かったとき、背後から声がした。
 
「おーい、ヘルメットかぶれよぉ」
 
 まだ声変わりをしていない、男子の声がした。
 大人に言われるならまだいいが、同い年から注意されると腹が立つ。
 声の方に目をやると、そこには男子がいた。
 ツトムと同じように自転車に乗っている。
 薄暗いのでよく見えないが、頭の形からしてヘルメットはかぶっていないようだ。
「お前だってヘルメットかぶってねーだろ!」
 顔を見てやろうと、ツトムは男子に近づく。
 徐々に、その男子がはっきり見えてくる。
 なんだこいつ。ヘルメットをかぶってる?
 赤いような、黒いような。
 違う。これって……。
「うわあああ!!」
 ツトムは叫び、必死に自転車を漕いだ。
 その男子の頭は血まみれで、頭蓋骨が割れ、中身が剥き出しになっていたからだ。
 ツトムは信号のない交差点に、ノーブレーキで突っ込む。
 激しい衝撃とともに、ツトムの体は宙を舞った。

 ヘルメットくんに声をかけられたら、すぐにヘルメットをかぶること。
 じゃないと、一生後悔する。

「おーい、ヘルメットかぶれよぉ」

「じゃないと……ぼくとおんなじになっちゃうよぉ」