――――ねえ、その席、座らないほうがいいよ。
四月の教室で、その声が耳に入った。
前の席の子が、友達にささやく声が聞こえた。
窓際の一番後ろ。
そこは日当たりもよく、先生の視界からも少し外れるから、最高の席だ。
私はそこに座ることになった。
最初の一週間は、何もなかった。
ただ、放課後に教室へ残っていると、廊下側の窓のあたりに誰かが立っているように思えることがあった。
気になって見ても、そこには誰もいない。
そのたびに、前の席の子はちらりとこちらを見て、すぐ前を向いた。
二週間目。
机の中に、折りたたんだ紙が入っていた。
――そこ、私の席。
丸く整った字だった。
見覚えがある気がしたけれど、思い出せなかった。
三週間目。
授業の合間、前の席の子のスマホが何度も鳴っていた。
たまたま見えた画面の数字に、理由のわからない引っかかりを覚えた。
その日の放課後だった。
耳元で、かすれた声。
「返して」
思わず立ち上がって、私は教室を出た。
職員室へ行けば何かわかるかもしれないと思った。
けれど、先生たちは忙しそうにしていて、私はついにそのことを話すことができなかった。
教室に戻ると、女子生徒のグループが残ってスマホを見ながら話をしていた。
「あの席、まただよね」
私の席を見ながら、ひそひそと。
前の席の子がスマホを取り出した。
「ほら、去年のやつ」
別の女子生徒にスマホの画面を見せていた。
その画面に映るのは、クラスのグループトークに残っている集合写真だった。文化祭のときのだ。
皆、同じ顔で、笑っている。
だけど、私がいなかった。
その時、私の記憶が過去へ戻っていく。
放課後の階段。
足を踏み外す瞬間。
天井と床が入れ替わる。
遠くで悲鳴。救急車の音。
私は、あの日。
前の席の子の手の中で、スマホの画面が暗くなった。
黒い画面に教室が映っていた。
机も、窓も、女子生徒たちも映っている。
でも、私だけが映っていなかった。
廊下のほうから、また声がした。
「返して」
誰に向けた声なのか、もう考えなくてもわかった。
四月の教室で、その声が耳に入った。
前の席の子が、友達にささやく声が聞こえた。
窓際の一番後ろ。
そこは日当たりもよく、先生の視界からも少し外れるから、最高の席だ。
私はそこに座ることになった。
最初の一週間は、何もなかった。
ただ、放課後に教室へ残っていると、廊下側の窓のあたりに誰かが立っているように思えることがあった。
気になって見ても、そこには誰もいない。
そのたびに、前の席の子はちらりとこちらを見て、すぐ前を向いた。
二週間目。
机の中に、折りたたんだ紙が入っていた。
――そこ、私の席。
丸く整った字だった。
見覚えがある気がしたけれど、思い出せなかった。
三週間目。
授業の合間、前の席の子のスマホが何度も鳴っていた。
たまたま見えた画面の数字に、理由のわからない引っかかりを覚えた。
その日の放課後だった。
耳元で、かすれた声。
「返して」
思わず立ち上がって、私は教室を出た。
職員室へ行けば何かわかるかもしれないと思った。
けれど、先生たちは忙しそうにしていて、私はついにそのことを話すことができなかった。
教室に戻ると、女子生徒のグループが残ってスマホを見ながら話をしていた。
「あの席、まただよね」
私の席を見ながら、ひそひそと。
前の席の子がスマホを取り出した。
「ほら、去年のやつ」
別の女子生徒にスマホの画面を見せていた。
その画面に映るのは、クラスのグループトークに残っている集合写真だった。文化祭のときのだ。
皆、同じ顔で、笑っている。
だけど、私がいなかった。
その時、私の記憶が過去へ戻っていく。
放課後の階段。
足を踏み外す瞬間。
天井と床が入れ替わる。
遠くで悲鳴。救急車の音。
私は、あの日。
前の席の子の手の中で、スマホの画面が暗くなった。
黒い画面に教室が映っていた。
机も、窓も、女子生徒たちも映っている。
でも、私だけが映っていなかった。
廊下のほうから、また声がした。
「返して」
誰に向けた声なのか、もう考えなくてもわかった。



