偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


少しして、衣装係の子が袖で手招きした。次は、変身の場面だ。

魔法使い役の芽依ちゃんが、舞台の中央に歩み出る。

あれから声が出るようになった彼女は、魔法使い役に大抜擢されたのだ。

「さあ、シンデレラ。あなたの夢を、叶えてあげましょう!」

芽依ちゃんの声は、練習のときよりずっと大きく、客席まで届いていた。

魔法の杖が振られた瞬間、舞台袖から淡い光のスポットライトが降り注いだ。

私は舞台の端に立ち、一気に衣装を着替えた。

ゴワゴワした灰色の布を脱ぎ捨てて、みんなで縫い上げた水色のドレスに。

キラキラした飾りがついたスパンコールがライトを受けてきらめいて、まるで本物の魔法がかかったみたいだ。

客席から「わあっ」とどよめきが起きた。

これは魔法じゃない。布と針を使って、みんなの手でできたドレス。それを身にまとった瞬間、私の背筋がすっと伸びた。

別の誰かにならなくても、今の私のままで、きれいになれる。

そのことが、初めてわかった気がした。

芽依ちゃんが、舞台の向こうからこちらを見てにっこりした。私も、小さく頷いた。