一瞬、頭の中が真っ白になった。
けれど、それと同時に頬に風を感じた。
上から、横から、そして客席から。
何百人もの呼吸が、一つの大きなうねりとなって、舞台の上に流れ込んでくる。
これが、舞台なんだ。
肺いっぱいにその空気を吸い込んで、私はもう一歩、踏み出した。
徐々に目が慣れてくると、暗闇の中に無数の小さな光が見え始めた。
みんなの、瞳だ。じっとこちらを見つめている、熱いまなざし。
……きれい。
あんなに怖かったはずなのに、不思議と喉が熱くなった。
台本を読み込んだあの夜の記憶が、指先から言葉になってあふれ出す。
私は、最初のセリフを口にした。
◇
シンデレラが継母に叱られ、床をみがくシーン。
冷たい舞台の床に手をつき、私は唇をかみしめた。悔しい、という感情を、体の中から引っ張り出すように。
本当に悔しいと思って演じたら、声の震えまで本物になった。
舞踏会に行けないと泣くシーン。
私はふと、遊園地のあの日のことを思い出した。
景斗さんにもう会えないんだ、と思ったとき、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
全部、本物だったのに。私だけが、『真白』という嘘の名前で立っていた。
シンデレラも、きっと私と同じだったんだ。魔法が解けて、ボロボロの姿に戻るのが怖くて。でも、大好きな人の前で嘘をつき続けるのは、もっと苦しかったはず。
涙があふれた。私は泣きながら、前を向き続けた。



