偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


一瞬、頭の中が真っ白になった。

けれど、それと同時に頬に風を感じた。

上から、横から、そして客席から。

何百人もの呼吸が、一つの大きなうねりとなって、舞台の上に流れ込んでくる。

これが、舞台なんだ。

肺いっぱいにその空気を吸い込んで、私はもう一歩、踏み出した。

徐々に目が慣れてくると、暗闇の中に無数の小さな光が見え始めた。

みんなの、瞳だ。じっとこちらを見つめている、熱いまなざし。

……きれい。

あんなに怖かったはずなのに、不思議と喉が熱くなった。

台本を読み込んだあの夜の記憶が、指先から言葉になってあふれ出す。

私は、最初のセリフを口にした。



シンデレラが継母に叱られ、床をみがくシーン。

冷たい舞台の床に手をつき、私は唇をかみしめた。悔しい、という感情を、体の中から引っ張り出すように。

本当に悔しいと思って演じたら、声の震えまで本物になった。

舞踏会に行けないと泣くシーン。

私はふと、遊園地のあの日のことを思い出した。

景斗さんにもう会えないんだ、と思ったとき、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。

全部、本物だったのに。私だけが、『真白』という嘘の名前で立っていた。

シンデレラも、きっと私と同じだったんだ。魔法が解けて、ボロボロの姿に戻るのが怖くて。でも、大好きな人の前で嘘をつき続けるのは、もっと苦しかったはず。

涙があふれた。私は泣きながら、前を向き続けた。