偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「心臓が、口から出てきそう」

「初めての舞台だもん、緊張するよね」

咲季はそう言って、氷みたいに冷たくなった手をぎゅっと握ってくれた。

「大丈夫。陽葵なら、できるよ。あたしが一番知ってるから」

「……うん」

私は、咲季の温かい手をそっと握り返した。


ついに、幕が上がった。

ざわついていた体育館が、一瞬でしんと静まり返る。

「行ってらっしゃい、陽葵ちゃん」

部長の手が、そっと背中に触れた。

震えて動かなかった足が、その温もりに押し出されるようにして一歩前へ出る。

気づいたら私は、舞台の中央に立っていた。その瞬間、ライトが目に飛び込んでくる。

強すぎる光が全方向から降り注ぎ、客席はほとんど見えない。

どうしよう……。