「これで、おしまい」
「……わあ! 先輩、ありがとうございます」
「ありがとうは、舞台が終わってから。芽依ちゃんの演技、楽しみにしてるよ」
笑うと、芽依ちゃんも力強くうなずいた。さっきまでの震えは、もう止まっていた。
◇
出演者全員のメイクが終わった。部員たちは衣装の最終確認をしたり、セリフを小声で練習したりしている。
私は最後に、一人で鏡の前に座った。自分のメイクをするために。
控室のざわめきが、どこか遠くで鳴っているみたいだった。
私は、鏡の中の自分とまっすぐ目を合わせた。
これまでは、「如月真白」になるためや、誰かを「お姫様」に変身させるためにブラシを動かしてきた。
だけど、今日は違う。今回は、結城陽葵のためのメイクだ。
パレットの上で、ブラシが泳いだ。
いつもなら「こうなりたい」という正解があるのに、今日はブラシが迷子になっているみたいで、なかなか手が動かない。
誰かのマネをするんじゃない。比べる相手は、どこにもいない。
今日は、誰にもならない。ただの「結城陽葵」を、一番いい顔にするんだ。



