偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


文化祭当日の朝。

目が覚めた瞬間から、心臓がずっとうるさく鳴っていた。

カーテンを開けると、雲一つない青空が広がっている。

いつもなら大好きな秋晴れなのに、今日だけはなんだか恨めしい。

洗面台で顔を洗いながら、鏡の中の自分を見つめる。

今日の私は、まだ「ただの陽葵」だ。

リビングに行き、ボロボロになるまで読みこんだ台本を手に取る。

「魔法が解けたとき、一番勇気がいる」

声に出してみると、言葉が白い朝の光の中に溶けて消えた。

怖い。逃げ出したい。でも、自分で決めたことだ。

私は深く息を吐くと、メイクポーチを強く握りしめた。



体育館の控室に着いたのは、朝の7時半だった。

窓から差し込む細長い光の中に、小さなホコリがキラキラと舞っている。

文化祭当日は、朝から準備時間が設けられている。

私は机の上に、メイクケースを広げた。

ブラシ、ファンデーション、色とりどりのパレット。一つひとつを机に並べていく。

いつもの作業をこなすだけで、不思議と心が落ち着いてくる。

「結城先輩、おはようございます!」

芽依ちゃんが、控室に駆け込んできた。衣装袋を抱えて、少し息が上がっている。