文化祭当日の朝。
目が覚めた瞬間から、心臓がずっとうるさく鳴っていた。
カーテンを開けると、雲一つない青空が広がっている。
いつもなら大好きな秋晴れなのに、今日だけはなんだか恨めしい。
洗面台で顔を洗いながら、鏡の中の自分を見つめる。
今日の私は、まだ「ただの陽葵」だ。
リビングに行き、ボロボロになるまで読みこんだ台本を手に取る。
「魔法が解けたとき、一番勇気がいる」
声に出してみると、言葉が白い朝の光の中に溶けて消えた。
怖い。逃げ出したい。でも、自分で決めたことだ。
私は深く息を吐くと、メイクポーチを強く握りしめた。
◇
体育館の控室に着いたのは、朝の7時半だった。
窓から差し込む細長い光の中に、小さなホコリがキラキラと舞っている。
文化祭当日は、朝から準備時間が設けられている。
私は机の上に、メイクケースを広げた。
ブラシ、ファンデーション、色とりどりのパレット。一つひとつを机に並べていく。
いつもの作業をこなすだけで、不思議と心が落ち着いてくる。
「結城先輩、おはようございます!」
芽依ちゃんが、控室に駆け込んできた。衣装袋を抱えて、少し息が上がっている。



