「ねえ、お母さん。私、明日の文化祭で舞台に立つことになったの」
文化祭前日の夜。夕食の席で、私はお母さんに報告した。
お母さんが振り向いた。少しだけ目が大きくなって、それから柔らかく細くなった。
「本当に? 陽葵が舞台に立つなんて」
「うん。怖いけど……やってみようと思う」
「そう……」
お母さんは少し間を置いた。それから、「実はね」と切り出した。
「お母さんも、昔……あなたと同じことがあって」
「え?」
「最初は、裏方だったんだけどね。あるとき、主役の子が急に出られなくなって。私が代わりに立つことになって」
「それって……今の私みたい」
「そうね」
お母さんは、目を細めた。
「怖くて、足が震えてた。それでも、立ってみて良かったって思った。舞台の上から客席を見たら、見てくれている人の目がすごくきれいで。そのとき、初めて知ったの。誰かに見てもらうことの気持ちよさを」
「お母さん……」
初耳だった。その言葉がじわりと、どこか違う場所に届いた。胸じゃなくて、もっと奥の、芯みたいなところに。
「明日、頑張っておいで」
お母さんは、私の肩をそっと叩いた。



