偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


練習のたびに、美紅先輩が水を飲む回数が増えていた。

ある日の練習では、セリフの途中で先輩がこっそり首をすくめる仕草も見た。

もしかしたら、喉が痛いのかもしれない。それでも先輩は、何事もないように練習を続けていた。



そして、ついに文化祭前日。最終リハーサルが始まった。

衣装もメイクも、全部整っている。本番さながらの空気が、体育館全体に張り詰めていた。

舞台袖に立つ直前、美紅先輩がそっと水を一口飲んだ。一瞬だけ目を細めて、それからすぐに表情を整える。いつもはしない仕草だった。

それでも、舞台に上がった先輩はやっぱり美しかった。冒頭のセリフも、よく通っていた。

――だけど次の瞬間、先輩の声がほんの少しだけかすれた。

気のせいかな? セリフは続いているし、声も届いている。でも、なんだか先輩の顔がいつもより白い気がした。

先輩、大丈夫かな……そう思った、そのときだった。

美紅先輩の体が、ふらりと揺れた。

「先輩!?」

先輩は倒れまいとするように一歩踏みとどまった。それでも膝から力が抜けて、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。

どよめきが広がる前に、私はもう走り出していた。

「大丈夫、ちょっと……」

先輩の声は、小さい。立ち上がろうとしているのに、足に力が入っていない。

「先輩、無理しないでください」

先輩の腰に手をまわして体を支えながら、私は後ろを振り返った。

「保健室、行ってきます!」