練習のたびに、美紅先輩が水を飲む回数が増えていた。
ある日の練習では、セリフの途中で先輩がこっそり首をすくめる仕草も見た。
もしかしたら、喉が痛いのかもしれない。それでも先輩は、何事もないように練習を続けていた。
◇
そして、ついに文化祭前日。最終リハーサルが始まった。
衣装もメイクも、全部整っている。本番さながらの空気が、体育館全体に張り詰めていた。
舞台袖に立つ直前、美紅先輩がそっと水を一口飲んだ。一瞬だけ目を細めて、それからすぐに表情を整える。いつもはしない仕草だった。
それでも、舞台に上がった先輩はやっぱり美しかった。冒頭のセリフも、よく通っていた。
――だけど次の瞬間、先輩の声がほんの少しだけかすれた。
気のせいかな? セリフは続いているし、声も届いている。でも、なんだか先輩の顔がいつもより白い気がした。
先輩、大丈夫かな……そう思った、そのときだった。
美紅先輩の体が、ふらりと揺れた。
「先輩!?」
先輩は倒れまいとするように一歩踏みとどまった。それでも膝から力が抜けて、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。
どよめきが広がる前に、私はもう走り出していた。
「大丈夫、ちょっと……」
先輩の声は、小さい。立ち上がろうとしているのに、足に力が入っていない。
「先輩、無理しないでください」
先輩の腰に手をまわして体を支えながら、私は後ろを振り返った。
「保健室、行ってきます!」



