偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「違う。景斗さんといて楽しかったのは──」

「もういい」

景斗さんの声は、怒りよりも痛みに満ちていた。それ以上の言葉はなく、背を向けて歩き出す。

ちらりと見えた彼の横顔は、今にも崩れそうだった。

「待って……」

追いかけようとしたけど、足が一歩も動かなかった。

喉から何も出てこない。全身から力が抜けて、私はその場にゆっくりと崩れ落ちた。

何も考えられなかった。音も、風も、遠くなっていく。

──バサバサッ!

カバンから演劇部の台本とメイク道具が地面に落ちた音だけが、やけにはっきり聞こえた。

真白さんが慌てて、「結城さん! 大丈夫!?」と駆け寄ってくれる。

「私、最低だ。景斗さんを、傷つけちゃった……」

ぽろぽろと、涙があふれて止まらなかった。