偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「……もう。景斗さんったら、意地悪ですわ」

「俺はむしろ、掴んでほしいですけどね」

ふと、なんでもないように言う。それって、どういう意味だろう。

外に出ると、秋の柔らかな日差しが眩しかった。

涼しいはずの風が、火照った頬には少しも冷たく感じられない。



次に私たちは、ジェットコースターに向かった。

乗り込んで安全バーを下ろしたとき、隣の景斗さんはまっすぐ前を向いていた。

緊張しているのか、していないのか、表情からは読み取れない。

コースターがゆっくり動き出す。登っていくにつれて、地面が遠ざかっていく。

頂上が近づくにつれ、全身が静まり返っていく気がした。

落ちる直前のあの感覚──静寂の中に、じりじりとした緊張だけが積み重なっていく。

そして、解き放たれた。

「──っ!」

風が顔を叩いて、全身が浮き上がるような感覚。叫ぼうとしても、声が風に消えた。

隣の景斗さんはやっぱり一声も上げなかったけれど、その横顔に、少しだけ血色が戻っていた。

「怖くなかったんですか?」

降りてから私が聞くと、彼は口元をゆるめた。

「好きなんですよ、こういうの」

それはいつもとは違う、年相応の少年みたいな表情だった。